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第6話 いざ冒険へ

 魔法薬の完成から数日後。

 新たなる旅に向け、出発の準備を整えたルイシャたちは王城敷地内の開けた場所に集まっていた。

 そこには彼らが所持する魔空艇、空の女帝(ブルーエンプレス)が停泊している。剣士クロムより譲り受けたこの魔空艇で、ルイシャたちは蛇人族ラミアたちの住む隠れ里『アルゴス』を目指す。


「しかしこんなに早く行く方法を見つけるとは……たいしたもんだ。正直驚いたぜ」


 ルイシャを見送りに来た人物が、ルイシャをそう称賛する。

 冒険家ケビン・クルーソー。蛇人族ラミアの里の情報をルイシャに教えてくれた彼は、まだ体の数箇所を包帯で巻いていた。

 しかし体の怪我は順調に癒えているようで、包帯の数は前回会った時よりも減っていた。普段から怪我が絶えない冒険をしている彼の回復能力は、常人をはるかに超えていた。


「でも本当にいいんですか? 僕たちが先に行ってしまって」


 ルイシャは申し訳なさそうに言う。

 もともと蛇人族ラミアの里の情報は、ケビンが集めたもの。ルイシャはそれを教えてもらっただけに過ぎない。


 それなのに先に自分たちが行ってしまっていいのかと思い、ルイシャはケビンも連れて行こうとしたのだが、彼はそれを断った。


「冒険は早い者勝ち、君たちが攻略法を見つけたなら君たちが先に行くべきだ。それに俺はほら、怪我も治ってないしな。おまけに君の見つけた方法は俺は使うことはできないし、遠慮しないでくれ。蛇人族ラミアの里を見つけるのは父の悲願でもあったが……なに、他にも冒険はたくさんある。それは君に譲るとしよう」


 ケビンはヴォルフと同じく魔力操作が苦手なため、魔法薬を使うことができなかった。なのでルイシャと同じ方法で里の中に行くことはできないのだ。


 なので彼はルイシャに先を譲り、今は怪我の回復に努めることにした。


「これは運命だと思うんだ。きっとあの里は俺じゃなく君を選んだ……だから行ってくれ。お代は土産話で大丈夫だ」

「……わかりました。ありがとうございます、ケビンさん」


 ケビンの決意が変わらないことを察したルイシャはその意見をのみ、握手を交わす。グッと固い握手を交わした二人は別れ、ルイシャは次に友人たちのもとに行く。


「行ってらっしゃいルイシャ。パロムの世話は任せてよ」

「うん、ありがとうチシャ。留守はお願いね」


 チシャにそう言ったルイシャは、その隣にいるシオンに目を向ける。


「まさか蛇人族ラミアの里の場所を見つけるなんてね、驚いたよ。いったいどんなところに住んでいるか……私も気になるよ」

「じゃあシオンさんも来ますか? シオンさんなら魔法薬も使えるかもですし」

「うーん、それもいいけどね……」


 ルイシャの言葉にシオンは少し考えるような素振りを見せるが、やがて首を振ってそれを断る。


「いや、やめておくよ。楽しそうではあるけれど、今回は僕の出る幕じゃなさそうだ。君たちだけで楽しんでおいで」

「? はい、分かりました」


 ルイシャは彼が言っている意味がよく分からなかったが、ひとまず了承する。この変わった先輩の言っていることがよく分からないのはいつものことであった。


 ルイシャは再度情報をくれたケビンの方を見ると、大きな声で別れの挨拶を言う。


「必ず戻ってきて里のことをお話しします!」

「ああ! 楽しみにしてるぞ!」


 友人たちに背を向けルイシャが魔空艇に乗り込むと、エンジンが激しく鳴り、船体がゆっくり宙に浮く。魔空艇の操縦術がすっかり板についたヴォルフは、器用に操舵すると、目的地である蛇人族ラミアの里に向かって魔空艇を発進させるのだった。


◇ ◇ ◇


「この調子だと昼過ぎには着きそうだね」


 外に流れる風景を見ながら、ルイシャが呟く。

 彼の目の前には地図が広がっている。印が付いている箇所は二つ。

 一つは出発地点である王都。そしてもう一つは王都の北西にある森に付いていた。


「それにしても蛇人族ラミアの里がこんなに近くにあるなんてね。てっきりもっと遠くなのかと思ったわ」


 シャロの言葉にルイシャは「そうだね」と返す。

 北西部にある森は王都から近く、数日かかるが馬車でも行ける距離であった。

 今まで行った永世中立国セントリアや港町オアフルと比べるとずいぶん近い。誰にも見つかったことのない隠れ里と聞いていたので、ルイシャたちは自然と遠くにあるものだとばかり思っていた。


「確かにこの森は近いですが……今まで見つからなかったのも頷ける場所ですね」


 話を聞いていたアイリスは地図上に指を走らせ、森の地点を指す。


「この森は人間領と魔族領の国境を跨がるように広がっています。無許可での越境は禁じられていますから、この森に近づく者は少ないでしょう。それに……この森は別名『迷いの森』と言われる、特殊な森でもあります。わざわざ近づく命知らずはいないでしょう」


 吸血鬼であるアイリスは、魔族や魔族領のことについて詳しい。

 彼らが向かっている『迷いの森』についても詳しかった。


「迷いの森……かあ。着く前にその話をもう一度詳しく聞いておいていい?」

「はい。迷いの森は霧の深い森です。霧には魔力が満ちていて、魔力探知も上手くできないと聞きます。磁場の影響か方位磁針も機能しないため、一度入ると方角を知ることは不可能と言われています」

「方位磁針も魔力探知も効かないなんて凄い森だね……。でもそれだけ入るのが困難なら、蛇人族ラミアの里があるのも納得だよ」

「そうですね。まさか魔族領の側にいるとは……盲点でした」


 アイリスの仲間の吸血鬼たちは蛇人族ラミアについても調査していた。

 しかしついぞその尻尾すら捉えることはできなかった。彼らの情報を秘匿する能力の高さは非常に高かった。


「魔法薬があるといっても、敵と認定される可能性はゼロじゃない。大変な相手だと思うけど……僕たちならきっとできる。頑張ろう」


 ルイシャの言葉にアイリスとシャロは頷く。

 こうして彼らは、決意を新たに目的地へ向かうのだった。

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