第3話 男子禁制
「男子禁制の里ねえ……。面倒くさいことになったわね」
夜の寮室。
ルイシャの恋人であり勇者の末裔でもあるシャロは、ルイシャの話を聞いて難しい顔をする。
冒険家のケビンは「里の場所は教えよう。だがおすすめはしない」と里の場所を教えてくれた。
だがこのまま行くことは彼の言うとおりやめておいた方がいいだろう。そう考えたルイシャはシャロとアイリスの二人を呼び、作戦会議をしていた。
「なにかいい案が思いついたら教えてほしいんだ。難しいと思うけど……」
「そうですね……ルイシャ様は可愛らしい顔立ちをされてますので、女装するなどはいかがでしょう? 以前された時も大変似合っていましたし」
そう提案したのは吸血鬼のアイリスであった。
彼女が言うとおりルイシャは女装の経験がある。その時の姿は確かに可愛らしかったので、更に磨きをかければみ蛇人族も出し抜けそうではあった。しかし、
「ケビンさんの話だと蛇人族の人たちは感覚器官がとても発達しているみたいなんだ。鼻や耳が効くし、熱を探知することもできる。見た目で誤魔化せても僕が男なことは隠し通せないと思うんだ」
「なるほど……ルイシャ様の女装がまた見れるチャンスだと思ったんですが」
残念そうに言うアイリス。
僕の女装が見たかっただけなんじゃ……と言う言葉が喉まで出かかるルイシャであったが、なんとか飲み込む。
仲間を疑うのは良くない。九割九分女装が見たかっただろうけど。
「でもじゃあどうするの? 案って言っても私とアイリスの二人で蛇人族の里に行くくらいしか思いつかないわよ」
「そうですね。私も今のところはそれくらいしか思いつきませんね」
女性であるシャロとアイリスであれば、とりあえず出会い頭に襲われることはない。
ルイシャは里の外で待ち、二人に中の様子を探ってもらえるのが一番得策に思えた。しかし、
「それは駄目だ。なにが起きるか分からないのに、二人をそんな危険なところに行かせることはできない」
強い目でキッパリと言い放つルイシャ。
彼からしたら当然のことを言ったに過ぎないが、突然男らしいことを言われたシャロとアイリスはお腹が「きゅん♡」と疼くのを感じた。
「しょ、しょうがないわね。そこまで言うなら二人で行くのはやめてあげるっ」
「ええ……そうですね。主人の思いに反するのはメイド失格ですから……♡」
なんか部屋の湿度が上がった気がする……と感じながら、ルイシャは二人に「ありがとう。じゃあ別の案を考えようか」と言う。
「うーん……」
改めて頭を捻る三人。
しかしいくら考えても妙案は浮かばなかった。
しばらくそうして考えていると、突然シャロが「あ」と声を出す。
「そうだ魔法よ。変装は無理でも魔法で性別を変えることはできるんじゃないの?」
「性転換魔法か……。そういうのがあるって本で見たことはあるけど、かなりマイナーな魔法だから簡単には覚えられないと思うよ?」
「そう……いい案だと思ったんだけど」
残念そうに言うシャロ。
すると今まで黙っていたアイリスがすっと手を挙げる。
「私、その魔法詳しいです」
「えっ!? そうなの!?」
「はい。以前興味があって調べてから、今も定期的に覚えようと頑張っています」
「まさかそんな偶然があるなんて。ちなみにそれってなんで覚えようと思ったの?」
「…………黙秘します」
ルイシャはその言葉に恐怖を覚える。
もしかして僕に使うつもりだったんじゃ……と。
しかし今はそれを問い詰めている暇はない。性転換魔法についてルイシャは詳しく尋ねる。
「それでどうなの? その魔法は使えそうなの?」
「正直なところ難しいです。基礎理論自体は覚えているのですが、人体を作り変える魔法は『魔法薬』の補助がないと困難なのです」
体内に入り、内部から効能を発揮する魔法薬は人体に影響を及ぼす作用が強い。
性別を変えるという複雑な魔法を成功させるには魔法薬の補助が必要不可欠であった。
「それもただの魔法薬では駄目です。強力な効果を持った素剤を用いたものでないといけません。くっ、私のお小遣いで足りるものであれば作れたのに……」
悔しがるアイリス。
もしお小遣いが足りていたらどうなっていたんだろう。ルイシャは寒気がするのを感じた。
「高級な素材を使った魔法薬かあ。そんなものが都合よく……って、あっ!!」
突然大きな声を出したルイシャに、シャロとアイリスはびくっと驚く。
一方なにかに気づいた様子のルイシャは、興奮気味に喋り出す。
「あった! 魔法薬の素材になるものが!」
「ほ、本当ですか!? いったいどこに!?」
「裏庭だよ! そこにあるマンドラゴラならきっと魔法薬の材料になる!」
伝説の植物、マンドラゴラ。
古き時代、魔法薬を作り出すために乱獲されたそれならば、きっと性転換の魔法薬を作れる。そう考えたルイシャは、さっそく性転換魔法に詳しいアイリスと共に魔法薬を作り出す算段を組み始めるのだった。