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第2話 黒の鉄蛇亭

「ここだ。この中にその人がいる」


 ベンに案内されルイシャがやって来たのは、王都にある酒場だった。

 『黒の鉄蛇亭』。そう看板に書かれたその店は、木造の二階建てであり、一階は酒場、二階は住居、そして宿屋として利用しているようだった。

 少しくたびれた色をしている木材は年季を感じさせるが、その造りはしっかりしておりまだまだ現役と言い張ってもよい見た目をしていた。


「入ろう」

「う、うん」


 ベンの後ろにつきながらルイシャが店内に入る。

 まだ日が出ている時間帯のため、店内の人はまばらだ。

 昼間から酒を飲んでいる男性が数名おり、物珍しそうにルイシャたちを見る。


 彼らの視線から逃げるように奥に行こうとすると、ルイシャは店内に見知った顔を発見する。

 冒険者らしい装備に身を包んだ三人組のパーティー『ジャッカル』。

 彼らはルイシャと一緒に少しだけ冒険をしたことがあり、そこでルイシャに助けられたことで彼のことを『兄貴』と慕うようになった。


 ルイシャは今でも彼らと親交があり、食事をしたり冒険者の仕事を手伝ったりしていた。

 ここで会ったのもなにかの縁と彼らに話しかけようとする。


「あ、ジャッカルのみんな……って、えっ!?」


 ジャッカルの三人のもとに近づいたルイシャは大きな声を出して驚く。

 ルイシャの視線の先にはジャッカルの三人と一緒に食事を楽しむ、ある人物がおり、それを見てルイシャは驚いたのだった。


 ルイシャの声でその人物もルイシャに気づき「おっ!」と嬉しそうに話しかけてくる。


「なんだルイシャじゃねえか。お前も飯か?」

「いやそうじゃないですけど……な、なんでバッドさんがここにいるんですか?」


 ジャッカルの三人と飲んでいたのは、かつてルイシャと拳を交わせたこともある伝説の海賊、キャプテン・バッドであった。

 彼は100年以上前に活躍した海賊であり、その体は骨だけ……つまりスケルトンになっている。しかし今は魔道具の力により、普通の見た目になっているので周りからは人間としか見られていない。


 海での未練を無くしたバッドは、ここ王都で悠々自適なセカンドライフを送っていた。


「ルイシャの兄貴じゃないですか! もしかしてバッドの旦那とお知り合いなんですか!?」

「う、うん、ちょっとね。マクスはどこでバッドさんと知り合ったの?」


 ルイシャを兄貴と呼ぶのはジャッカルのリーダー、マクス。

 まさかマクスたちがバッドと面識あるなど思ってなかったルイシャは、その馴れ初めを尋ねる。


「実はこの前面倒くさい依頼クエストを受けて困ってたんですが、そこを最近冒険者になったバッドの旦那に助けてもらったんです。それ以来仕事をちょくちょく手伝ってもらってるんです。今日は依頼クエスト成功祝いの飲み会です」

「へえ、そうだったんだ」

「はい。バッドの旦那はすげえ強えんですよ! こんな強い人が無名だったなんて、驚きですよね」

「はは……そうだね」


 実際はバッドは伝説の海賊であり、無名などではないのだがルイシャは言わなかった。もしそんなことが知られたら騒ぎになるし、バッドも伝説の人扱いされるのは望んでないだろう。


 友人を作れたのならばなにより。王都でもうまくやっているみたいで良かったとルイシャは心のなかで喜ぶ。


「せっかく酒場出会えたんだし、一杯付き合え……と言いたいとこだが、他に用がある見てえだな」

「はい、実は人に会いに来てて」

「そうだったか。それじゃあほれ、あっちの席に骨のありそうなやつがいたぞ。用があるのはそいつじゃないか?」


 バッドは店の端のほうの席を親指で指す。


「ありがとうございます。ちょっと見てきますね」

「おう。手が空いたら席来いよ。酒くらい奢るからよ」


 ルイシャはバッドとジャッカルの三人と別れ、ベンと共に店の端の席へ向う。


「賑やかで楽しそうな人たちだな」

「うん。後でベンにも紹介するよ」


 そんなことを話しながら二人は個室……と言っても、カーテンで仕切られているだけの区画の前にたどり着く。。

 どうやらこの店の奥には簡易的な個室が数室用意されていたようだ。人目を嫌がるような人はこの席で飲むのだろうとルイシャは推測する。


「少し待っててくれ。中の人と話してくる」


 カーテンをめくり、ベンが一人で中に入る。

 そして数十秒ほど中で話すと、外に出てくる。


「大丈夫だ。話してくれるそうだ」

「ありがとうベン。本当に助かったよ」

「なに、お安い御用だ。それよりほら、あんまり待たせるな。私は外で待ってるから」

「うん。分かった」


 ルイシャはベンと別れ、垂れている布をくぐり中に入る。

 その先には円形のテーブルと椅子が三つ置かれており、その椅子の一つに一人の男が座っていた。


「いらっしゃい。君が話を聞きたいって子かい?」


 ルイシャが入るとその男はフレンドリーに話しかけてくる。

 彼は浅黒い肌と短く揃えた金髪が特徴的な男だった。どうやら怪我をしているようで、体のあちこちに包帯を巻いている。

 転んだにしてはあまりにも重傷である。傷のつき方から見ても何者かと戦闘(・・)をしたように見える。


 しかしルイシャはその怪我よりも気になるところがあった。


「あ、あなたは……っ!?」

「ん? 君はどこかで……あ、もしかしてシンディと一緒にいた子か!? えっと確か名前はルイシャだったか」

「はい。まさか王都で会えると思いませんでした、ケビンさん」


 その男、冒険家ケビン・クルーソーはルイシャの言葉に「確かにな」と笑顔で返す。

 そう、ルイシャは少し前に彼に出会ったことがあった。


 以前海賊のシンディと財宝を巡る旅をした時に彼に会い、そして仲間に誘った。

 しかしその時は別の冒険があって忙しいからとケビンは固辞した。その別の冒険の行き先こそが蛇人族ラミアの里『アルゴス』であった。


「そっか、蛇人族ラミアに詳しい人ってケビンさんだったんですね。納得です」

蛇人族ラミアについて知りたがっている子どもがいるって聞いたから興味本位で会うことにしたけど、まさか君とはね。シンディから聞いたよ、その歳で海賊王の宝に行き着くとは大したもんだ。いい冒険ができたようで羨ましいよ。そっちについてけばこんなざまにはならなかったのにな」


 ケビンはそう言ってボロボロの体をルイシャに見せつける。

 傷をよく観察すると、切り傷やなにか鋭利なもので刺されたような傷であった。モンスター、もしくは武器を持った人間につけられた傷かとルイシャは推測する。


「その傷は蛇人族ラミアの里を探している途中で?」

「ああ。伝説の里『アルゴス』を見つけることまではいったんだけどなあ。そこで手ひどくやられちまった」

「ええ!? 見つけたんですか!?」


 ルイシャは身を乗り出して驚く。

 蛇人族ラミアの里『アルゴス』は一度も見つかった記録がない秘境だ。それをさらっと見つけたと言い放つケビン。やはり冒険家の名は伊達じゃないとルイシャは彼に畏敬の念を抱く。


「まあアルゴスは長年追っていたからな。会った時にはもうだいたいの位置はつかんでいた。君たちと別れた俺は、仲間とともにいざアルゴスへ……と意気揚々と向かったんだけど、里の中に入ることは叶わなかった」

「それは蛇人族ラミアの人たちに攻撃された……ということですか?」


 ルイシャの問いにケビンは頷く。


「腕には自信があったんが、まるで歯が立たなかった。蛇人族ラミアは一人ひとりが強力な『戦士』で、非常に連携の取れた動きで獲物を追い詰める。一対一なら俺もなんとかなったと思うが、複数人で襲いかかられちゃ手の打ちようがない。仲間一人抱えて逃げるので精一杯だったよ」

「その状況でよく逃げられましたね……あれ?」


 ルイシャはあることに気づき声を出す。

 傷を負った状態で仲間を抱え、逃げることに成功したことも驚くべきことだが、今気になったのはそこではなかった。


「仲間一人? 確か前に会った時は仲間が二人・・いたと思うんですけど、もう一人は一緒にいかなかったんですか?」

「いや、あの時のメンバー全員でいったぞ。もう一人の仲間は蛇人族ラミアに襲われなかったから、抱える必要がなかったんだ」

「襲われなかった、ですって? 蛇人族ラミアに襲われない方法があるんですか?」


 ルイシャは食い気味に質問する。

 できれば蛇人族ラミアとは友好的な関係を築きたい。その方法を知られるのではあれば、ぜひ知りたい。

 期待に満ちた視線を送られるケビンだが……その表情は暗かった。


「……悪いが、その方法は君には使うことができない。蛇人族ラミアと会ってなにをしようとしているかは知らないが、行っても返り討ちに遭うのがオチだ。やめておいた方がいい」

「そんな! せめてその方法だけでも教えてくれませんか? もしかしたらできるかもしれないじゃないですか!」

「いや、不可能だ。なぜなら蛇人族ラミアが攻撃するのは『男性』が対象だからだ」

「……へ?」


 思わぬ言葉にルイシャの動きが止まる。

 するとケビンは申し訳無さそうで『男性』が攻撃される理由を説明する。


蛇人族ラミアの里アルゴスは『男子禁制』なんだ。つまり女性しか中に入ることが許されていない。俺やお前じゃなにをやっても入ることはできないんだ」

「そ、そんな……」


 男は入ることが禁じられているという驚愕の事実を知り、うなだれるルイシャ。

 しかしいくら禁止されているといっても、勇者の情報を諦めるわけにはいかない。


「どうにかしなきゃ……」


 立ちはだかる性別の壁に苦しみながらも、ルイシャは打開策を考えるのだった。


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