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第27話 七海王シンドバット

 海賊王と別れたルイシャたちは、シンディの船で港町ラシスコに送ってもらった。

 完全な陸地に降り立ったルイシャたちは、大地のありがたみを再認識する。


「やっぱり陸は落ち着くね」

「島にはいたけど海中だったからね。しばらく海は見なくてもいいかしら」


 ルイシャとシャロがそう話していると、二人にある人物が近づいてくる。


「寂しいこと言うねえ。また遊びに来てくれよ」

「シンディ」


 既にルイシャたちの荷物は降ろしてある。

 彼女たちともここでお別れだ。


「シンディはこれからどうするの?」

「怪我した船員なかまも多いし海賊の島オアフルでゆっくりしようと思ってる。そして少ししたらまた航海たびに出る。次はどんな伝説を追おうかねえ」


 楽しげに語るシンディ。

 一番の目的であるバットと出会ったことで海賊をやめるんじゃないかとルイシャは思っていたが、どうやら杞憂だったようだ。


「陸での生活に飽きたらいつでもおいで。あんたらならいつでも仲間にしたあげるよ」

「はは、じゃあその時はお願いしますね」


 ルイシャとシンディは笑いながら握手を交わす。

 するとシンディは突然握った手を自分の方に引く。結構な力で引っ張られたルイシャは「わわ!?」と前のめりな姿勢になる。


 シンディはその隙を見逃さず距離を詰めると、彼の唇を奪ってしまった。


「~~!?」


 不意に感じたそのやわらかい感触にルイシャは驚く。

 咄嗟に体を話そうとするが、シンディは彼の体をがっちり掴んで離さない。


 しばらくその感触を楽しんだシンディは「ぷはっ」と唇を離すと、いたずらげな笑みを浮かべる。


「このキスを忘れたらまた海においで。また思い出させてあげる」


 そう言うとシンディは大きく跳躍して、仲間が待つ船に飛び乗る。

 船員たちは船長の耳が赤くなっていることに気がついたが、触れることはなかった。


「あんたたちと旅をしたことは忘れない! 海で困ったらいつでも助けるからあたしを呼びな!」


 錨が上がり、帆が張られる。

 シンディの海賊船は風を受け進んでいく。


 ルイシャは船の姿をしばらくジッと見つめていた。


「さ。じゃあ僕たちも行こうか」


 そう言って振り返ると、そこには鬼のよう恐ろしい気迫オーラをまとったシャロとアイリスの姿があった。


「行こうか、じゃないでしょ? さっきのキスはなに?」

「ずいぶん長いこと楽しまれてましたね。覚悟は出来ていらっしゃるのでしょうか?」

「あ、あの……」


 たじたじになるルイシャ。

 それを見たヴォルクは、ようやく日常に戻ったな、と呑気に思うのだった。



◇ ◇ ◇



 シンディと別れたルイシャたちは、次にお世話になった商人のスタン・Lリー・フォードにも挨拶をしにいった。

 無事にルイシャたちが戻ったことを彼も喜び、また会いましょうと円満に別れた。


 そして次に彼らは魔空艇『空の女帝(ブルーエンプレス)』が停泊している吸血鬼たちの所有する邸宅に訪れた。


 そこで一日ほど休んだルイシャたちは、翌日の朝、ラシスコを発つことにした。


「……ここで、お別れですね」


 ヴィニスは寂しそうに呟く。

 彼はこの後仲間の吸血鬼にこの件の報告をしなければならない。ルイシャたちについていくことは出来なかった。


「楽しかったよヴィニス。元気でね」


 そうルイシャは言うが、彼のことが少し心配だった。

 もう変な声が聞こえることはない。しかし同族とのぎくしゃくが完全に消えたわけじゃない。出来ることなら支えになってあげたいが、ルイシャにもやることがある。ずっと側で守ってあげることは出来ないのだ。


 そんなルイシャの心配を察したのか、ヴィニスはある物を取り出す。


「ふっ……何を心配しているルイシャ兄。俺にはこれがあるから大丈夫だ!」


 ヴィニスは黒いマントを取り出すと、それを装着する。

 そのマントはルイシャが魔竜モードを発動した時につけていた物に酷似していた。彼はラシスコで休んでいる間にこれを自分で作っていたのだ。


「闇を具現化したような黒色を再現するのは困難だったが……俺の手にかかれば造作もない。このマントがある限り俺とルイシャ兄は魂で結ばれている……違うか?」


 まるで出会った時の様な口調で話すヴィニス。

 それはもう自分は大丈夫だという彼なりの返事だった。それを察したルイシャは彼に合わせてキメ顔で返す。


「また会おう。魂の兄弟(ソウルブラザー)

「ああ、必ず……!」


 こうしてヴィニスもルイシャたちと別れるのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] そんな存在しない記憶で結ばれたブラザーみたいな…
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