第25話 長き戦のその果てに
「魔煌閃!」
ルイシャの手から黄金色の光が放たれ、ク・ルウの肉体を包み込む。
その光にはあらゆる『魔』を分解する力がある。既に魔力の大半を失っていたク・ルウに抗う術はなく、その肉体はボロボロと崩れていく。
『ル……あ……』
自らを倒した者たちの姿をジッと見ながら、ク・ルウは完全に消滅した。
それを確認した者たちは、大きな歓声を上げる。
特にバットの部下たちの声は大きい。彼らは百年もの間戦い続けていたのだ、だけどそれもようやく終わるのだ。
「大将、あれ」
「うん。彼らも帰るんだね」
ヴォルクの指差す方向では、多数の船が沈み始めていた。
その船たちはク・ルウの戦いに助太刀しに来てくれた過去の船たちだ。沈みゆく船の上で敬礼しているスケルトンたちの表情はどこか満足しているように見える。
バットはそれを見ながら楽しそうに呟く。
「よう、楽しかったなお前ら。あっちでまた喧嘩しようぜ」
ク・ルウを倒し海に平和を取り戻した今、バットたちに未練はない。
別れの時は、近づいていた。
「だがその前にやることがあらぁな」
バットはニィ、と笑うとそれの準備に取り掛かるのだった。
◇ ◇ ◇
「それでは、あの怪物ク・ルウの討伐と! 我らが船長キャプテン・バットとその曾孫シンディアナ嬢ちゃんの出会いを祝して! 乾杯ッ!」
「乾杯!」
船員マーカスの号令のもと、海賊たちがグラスを思い切りぶつけ合う。
無事ク・ルウを倒したルイシャたちは、船上で宴を開いていた。グロウブルー号とブラック・エリザベス号の二船は隣り合ってくっついており、互いの船を行き来できるようになっている。
「ひいじいちゃんたちは酒を飲めるのか? 骨だけど」
「がはは! こんなもん気合いよ!」
可愛いひ孫を横に連れ、楽しげにバットは酒を呷る。
スケルトンである彼に内蔵はない。普通であればこぼれ落ちるはずだが、なぜか酒はちゃんと飲むことが出来ていた。
「おうルイシャ! お前ちゃんと飲んでんのか!?」
ブラック・エリザベス号の甲板に置かれた大きなテーブル。
そこに座っているバットは向かいに座っているルイシャに話しかける。ルイシャはぐったりとした様子でそれに答える。
「はい、いただいてますよ」
そう言ってルイシャはちびちびとお酒を口にする。
魔竜モードの反動で体が重いが、なんとか彼はこの宴に参加していた。彼の両隣にはシャロとアイリスがおり、彼を甲斐甲斐しく世話していた。
「ほらルイ、これ美味しかったから食べなさい。それとも食べさせてあげましょうか?」
「いえ、ルイシャ様はこちらをお召し上がりになったほうがよろしいかと。おや、少し体調が優れてないご様子、私と一緒に部屋に行きましょうか」
「なにあんたシレッと連れ出そうとしてんのよ!」
「は、はは……もう好きにして二人とも……」
わいわいと楽しむ一同。
つい数時間前まで死闘を繰り広げていたとは思えないほど、彼らは笑顔であった。
そんな一同の前に、ある人物が現れる。
「ルイシャ兄、アイリス姉……」
現れたのはヴィニスであった。
ク・ルウに無理やり力を吸われ衰弱していた彼は、今まで部屋で眠っていたのだ。
彼を気づいたルイシャとアイリスは席を立ち、駆け寄る。
「ヴィニス、目覚めたのですね!」
「よかった、心配してたんだよ」
嬉しそうに駆け寄ってくる二人を見たヴィニスは、申し訳無さそうな表情を浮かべると、頭を下げる。
「……ごめん、なさい。俺のせいでみんなに迷惑を……」
それを見たルイシャとアイリスはお互いを見て、頷き合う。
アイリスはヴィニスの肩を掴み、下げた頭を起こす。そして情けなく眉を下げているヴィニスをじっと見つめながら口を開く。
「謝るのは私の方です。貴方の苦しみにもっと早く気がつくべきでした。ごめんなさい、私はいい姉ではありませんでした」
「……っ! そんなことはない! アイリス姉は悪くない! 俺が、俺が弱かったからいけないんだ!」
必死にアイリスのことを庇うヴィニス。
二人のやり取りを近くで見ていたルイシャは、向かい合う二人の横に行くと両者の手を取る。
「ここには誰かを責めようと思っている人なんていない。だから許し合おうよ。もうヴィニスを苦しめた存在もいない。後悔があるなら、今日からまたやり直そうよ」
ルイシャの言葉に、二人は頷く。
過ぎた時は戻らないが、これから来る未来は変えることが出来る。
「アイリス姉。俺、話したいことがたくさんあるんだ」
「ええ、いくらでも聞きますよ」
笑い合う二人。
この先どんなことがあっても、二人は仲良くいられるだろう。ルイシャはそう確信するのだった。