第23話 血の絆
「あいつらやりやがったぜ!」
切り落とされた二本の足を見て、バットは歓喜の声を上げる。
残された足は五本。まだ半分もいっていないが主力の力は温存されている。いいペースと言えるだろう。
「だけど最初に切った足が再生され始めています!」
「ああ、もう時間がねえ。一気に片すぞ!」
ルイシャとバットは分かれてそれぞれの足を目指す。
ク・ルウの前方に生えている狙いやすい足は既に切断済みだ。残るは後ろの方の足。二人はク・ルウの体の上を全速力で駆け抜ける。
「主砲用意!」
その間にブラック・エリザベス号は主砲でク・ルウの足を狙う。
一本でも落とせれば船長の負担をかなり減らすことが出来る。船員たちは船に登ってくるタコのモンスターと戦いながらも必死に船のバランスを取り、主砲の向きを調整する。
その様子はク・ルウの上からでも窺うことが出来た。自然とバットの足も早まる。
「かか、死んでもここまで尽くしてくれるたぁいい部下を持った。船長の俺が応えなきゃ、漢じゃねえよなあ!」
サーベルを右手で握りしめ、バットは跳躍する。
彼は一度も剣技をならったことはない。サーベルを持ってはいるが、主に拳で戦う彼はそもそもサーベルを抜くことすら稀であった。
確かにその技は荒い。
しかし人間離れした筋力を持つ彼の一撃は、剣豪のそれと比肩しても劣らない威力と鋭さを持っていた。
「蛮殻剣ッ!」
力任せの上段斬り。
その一撃は切断面こそ荒いものの、ク・ルウの足を見事に切り落として見せた。
「しゃあ! もう一本!」
力が余っているバットは次の足に向かおうとする。
しかしその瞬間、自分のサーベルが根本から折れてしまっていることに気がつく。
「しまった、しばらく整備してなかったな」
使い物にならなくなったサーベルを捨てながらも、バットは隣の足に駆ける。
「拳で切るのは流石に難しいな。手刀ならいけるか……!?」
頭を働かせながらバットは隣の足に到着する。
すると更に隣の足がちょうど両断される。
それを成し遂げたのはバットのひ孫のシンディであった。
ルイシャたちより少し遅れて体に飛び移った彼女もまた、無事に任務を達成したのだ。
「つうことは後三本か。目の前のこれさえ切れりゃあ……!」
険しい顔をするバット。
すると次の瞬間、目の前の足が激しい爆発を起こす。
「うおっ!?」
驚くバット。
その爆発の正体はすぐに分かった。
「あいつら、やりやがったな!」
その爆発はブラック・エリザベス号の主砲によるものだった。
タコのモンスターと戦いながらも船員たちは足の根元に狙いをつけ、砲撃を成功させたのだ。
その主砲の一撃は凄まじく、命中箇所は黒く炭化していた。だが完全に足を落とすことは出来ておらず、一部が繋がった状態であった。これではすぐに再生される危険がある。
バットはなんとか切り落とそうと着弾箇所に走る。
それを遠くから見ていたシンディは、全てを察してバットのフォローに入る。
「キャプテン・バット!」
自分を呼ぶ声に、バットは視線を向ける。
するとシンディは彼めがけて、手に持ったサーベルをぶん投げる。念のため彼女はサーベルを二本持ってきていたのだ、一本無くなっても問題はなかった。
投げられたサーベルは弧を描きながらバットのもとに飛来する。
タイミング、角度、速さ、全てドンピシャの完璧な投擲にバットは笑う。
「くく、長年連れ添ってもこんなに呼吸は合わねえぜ。血の繋がりって奴は侮れねえもんだな」
空中でサーベルを回収したバットは、再生し始めている足めがけサーベルを振り下ろす。
「おらよ……っとぉ!」
再びバットの重い斬撃が命中し、足が切り落とされる。
これで残り二本。位置的に間に合うのはルイシャだけ、彼に全てが託された。
「もう最初の足は再生が始まってやがる。早めに頼むぜ……!」
祈るバット。
その頃ルイシャは、残る二本の足が生えている場所に到達していた。
「みんな頑張っているんだ、絶対に切る!」
ルイシャは魔力探知で誰がどの足を切ったのかを把握していた。
残るは自分の目の前にある二本。そして切ることが出来るのは自分だけであることも分かっていた。
ここが頑張り時。ここが……奥の手を切る場所。
ルイシャは温存していたそれをとうとう発動する。
「魔竜モード、オン!」
体に流れる魔王と竜王の力が、目覚める。
魔眼と竜眼が開眼し、額からは赤い角が生えてくる。
体から溢れる黒い魔力はマントと尻尾の形となり、彼の意のままに動くようになる。
ルイシャはマントを翼の形に変えて飛行し二本の足の間に入り込む。
「これで終わりだ! 真・次元斬!」
ルイシャは空中で縦に一回転しながら斬撃を放つ。
円を描くように放たれた全てを切断する一撃は、一度に二本の足を両断する。
『ル。ルアアアアッッ!!』
海に轟くク・ルウの絶叫。
遂にルイシャたちはク・ルウの足を全て切断したのだ。