第9話 推理
ルイシャの言葉にAクラスに動揺が走る。
たしかにその言葉の通りAクラスは海の魔物を観察するという名目で王国北の浜辺まで行っていた。
「そ、それがどうした? そんなのが証拠になるとでも思っているのか!?」
「それだけじゃありませんよ。教室にあった靴跡、これはただの靴ではありません。普通の学生靴の数段高いオーダーメイドの靴です。これは全生徒の中でも数人しか持っていません。ハウロさん、あなたはその一人ですね」
「ぐっ……!!」
ここにきてハウロの額に汗が流れる。
確かにその高級靴はハウロとその取り巻きが履いているものだ。
ルイシャのクラスメイトには情報通の者もおり、この程度の情報ならすぐに集めてくれるのだ。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ! どれも状況証拠じゃないか! 確たる証拠もないのに僕らを疑うのか!?」
喚き散らすハウロを見て「はあ」とルイシャはため息を漏らすと再び髪の毛をハウロに見せる。
「自白したら少しは許してあげようと思ったんですがその気はないみたいですね」
「ば、馬鹿言うんじゃないよ。僕たちはやってないのだから」
「もういいです。これが証拠ですよ。時間逆転!!」
ルイシャが魔法を唱えると、手に持っていた髪の毛がふうっ、と浮き勢いよくハウロ目掛け飛んでいく。
「な、なんだあ!?」
そしてその髪の毛は、狼狽るハウロの髪の毛の中にスポッと入ってしまう。
「お前! 何をした!」
「今の魔法は物体の『時を戻す』ものだよ。髪の毛の時を戻して、まだ頭に生えていたときに戻した。つまり落ちてた髪の毛は君のものだってことだよハウロ」
「な、なんだって……!?」
ハウロはそれを聞いて愕然とする。
時に作用する魔法は上級魔法使いでもおいそれと使えるものではない。それをこんな平民のガキが!?
そんなの認められない。認めてたまるか!!
ハウロはあまりの悔しさに冷静な思考ができなくなり腰から短い杖を引き抜きルイシャに向ける。
「……どういうつもりかな」
「こ、これは粛清だ! 生意気な平民を粛清するんだよお! お前らも構えろ!」
ハウロの命令で彼の取り巻きも杖を抜き向ける。
頭に血が上った彼らは気づかない。生徒に杖を向けることは校則だけでなく王国の法律をも破る行為。
これをしたことでルイシャたちには正当防衛の権利が発生するのだ。
「待たせたねバーン。もう我慢しなくていいよ」
ルイシャは笑みを浮かべて言う。
この正当防衛の権利を発生させることこそルイシャの狙いだったのだ。
プライドの高い彼らのことだ。ジワジワ追い詰めれば絶対に我慢の限界が来る。
全てはルイシャの手のひらの上だったのだ。
「撃て撃てぇ!!」
ハウロの合図でいくつもの魔法が放たれる。
しかしルイシャたちはふてぶてしく笑う。
さあ、反撃だ。