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第16話 それを知るための航海

「ねえおばあちゃん! またキャプテン・バットのことを悪く言うやつがいたの!」

「あらあら。そうだったの」


 それはシンディの古い記憶。

 港町に住む普通の少女だった彼女は、自分の祖母が大好きであった。


 暇さえあれば遊びに行き、そして色んなお話を聞かせてもらっていた。

 その話の中でももっとも好きだったのは『海賊キャプテン・バット』のお話だ。しかし彼女の聞いていた話は、世間一般で知られているものとは少し違っていた。


「キャプテン・バットは逃げたって言うんだよ! 本当は違うのにね!」

「ええ、そうね。あの人は勇敢な海の戦士でした」


 祖母の胸に飛び込むシンディ。

 彼女がそうやると、祖母は決まって彼女の頭をなでてあげていた。シンディはこうしてもらうのが大好きであった。


 シンディの祖母は、キャプテン・バットの娘である。

 しかし彼女は父であるバットに数回しか会ったことはない。

 いつも航海に出て滅多に家に帰らないバット。おまけに彼女がまだ幼い時にバットはその姿を人前から消してしまった。


 父が消えた理由を、彼女は知らない。

 生きながらえたバットの仲間は娘である彼女に伝えるか悩んだが、結局それを知ることで危険に晒される可能性があるかもしれないと、伝えなかったのだ。


 しかしそれでも彼女とシンディは信じていた。

 かの海賊王は逃げてない。きっと何か理由があって姿を消したのだと。


「ねえおばあちゃん! あたしね、大きくなったら海賊になるの! それでひいおじいちゃんが逃げたわけじゃないって証明してみせるの!」


 それを聞いた彼女の祖母は驚いたように目を丸くした後、優しく微笑む。


「……それは素敵な夢ね。きっと貴女なら出来ますよ」


 そう言って彼女はシンディのことを優しくなでた。


 ――――それから三年後。

 シンディは八歳の時に、海賊になるため海へと飛び出した。


 当然家族からは反対されたので、シンディは家族から隠れて逃げるように家を出た。

 その行動が家出に終わらず、海の外まで続いたのは祖母がこっそりくれたお金のおかげだろう。


「ありがとうおばあちゃん。あたし、絶対にやり遂げるから」


 海賊の道は平坦なものではなかった。

 襲いかかる苦難の連続。しかし持ち前の腕っぷしの強さと人を引き付けるカリスマ性で彼女はそれらを乗り越えてみせた。

 仲間に恵まれたのも大きい。海に出てすぐに仲間になったマック・エヴァンスは副船長となり彼女の足りない部分を補った。


 そうして彼女は七の海を越え、その果てにとうとうたどり着いた。

 ずっと会いたかった海賊王そうそふのもとへ。


「……あたしは嬉しかった。やっぱりキャプテン・バットは逃げたわけじゃないって分かったから。大切な海や家族を守るために戦ったんだってしれて嬉しかったんだ! それなのに……それなのにこんな所で諦めないでよ! 最後まで自慢のおじいちゃんでいてよ!」


 シンディは思いの丈をぶつける。

 その瞳には光るものが浮かんでいる。自分でもめちゃめちゃなことを言っているとは理解していた。しかしそれでもその気持ちをぶつけずにはいられなかったのだ。


 シンディの想いを聞いたバットはしばらく黙った後、口を開く。


「……そうか。無事、だったんだな」


 ずっと海の底にいたバットは、当然自分の家族が無事に暮らしていたかどうかは分からなかった。信頼する部下に託したのだから無事だろうとは思っていたが、それでも心配なものは心配だ。


 その家族は無事どころか、元気すぎてこんな海の底まで追いかけてきた。

 こんなに嬉しいことはない。


「そうか、あいつに孫が……そうか……」


 ジッとシンディのことを見る。

 確かにその顔は記憶の底にある娘に少し似ていた。よく見れば目元なんかそっくりじゃないか。


 じん、と胸の奥が熱くなる。

 こんな気持ちになるのは百年ぶりであった。


「まだ俺には守るべきものがあるんだな……」


 もしク・ルウが暴れれば、自分の子孫にも危険が及ぶ。

 それはあってはならないことだ。絶対に阻止しなければいけない。


 ふつふつと、心に闘志の炎が宿る。

 バットの心を支配していた弱気な心は、既に消え失せていた。


「悪いなシンディ。俺はもう大丈夫だ」

「ひいじいちゃん……」


 シンディの頭に手を乗せたバットは、彼女の頭をなでる。

 そのなで方は、シンディの祖母が彼女にやったなで方に少し似ていた。


「マーカス、船は出せるか?」

「え、あ、はい! いつでもいけますぜ船長!」


 船長の言葉に、船員のマーカスは嬉しそうに答える。

 あの時の恐ろしい船長が帰ってきた。これ以上に嬉しいことはない。


「今すぐ出港準備だ。最後の喧嘩だ、盛大にやるぞ!」


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