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第7話 海底の決闘

「はああああっ!」


 咆哮を上げながら駆けるルイシャ。

 彼の向かう先に構えるのはかつての大海賊キャプテン・バット。

 バットは骨の顔に笑みを浮かべながらルイシャが来るのを待つ。


「来いや小僧!」

「言われなくても!」


 ルイシャは右の拳を強く握り、気を込める。

 スケルトンの弱点は打撃。斬撃の効果は薄いことをルイシャは知っていた。

いかに普通のスケルトンよりもずっと強いバットと言えど、弱点に変わりはないはず。そうルイシャは考えた。


 ルイシャが拳による攻撃を行うと察したバットは、自分も拳を握る。

 その構えは乱雑で、喧嘩をする時の構えにしか見えない。武の道を歩んでいるようにはとても思えなかった。

 しかしその構えは堂に入っており、ルイシャは強者の匂いを感じ取っていた。


「気功術攻式一ノ型、隕鉄拳っ!!」

「喧嘩殺法、蛮殻拳ばんからけんッ!!」


 両者の必殺の拳が同時に放たれ、激突する。

 その衝撃波凄まじく、辺りに物凄い轟音と衝撃波を生み出す。近くに人がいれば大型の爆弾が爆発したと勘違いしただろう。


「ぐぎぎ……」

「こいつは驚いた。まさか俺様の拳と張り合えるとはな」


 両者の拳の威力は同等であったが、体重ウェイトの分バットの方が優勢であった。

 肉体が落ち、骨のみとなってなお彼の重さは百キロを超えていたのだ。


 恐ろしきはその骨密度。

 磨き抜かれた肉体を持っていた彼の骨は、太く、硬く進化しており、鉄を大きく超える硬度を持っていた。


(正面から殴りあるのは分が悪そうだね……だったら!)


 ルイシャは速度を活かし側面に回り込む。

 そして勢いよく跳躍し、バットの首部分、頸椎に鋭い回し蹴りを放つ。


(頸椎は骨の急所。ここなら!)


 ルイシャの狙いは悪くなかった。

 普通のスケルトンであれば首が粉々に砕け、復活するのに時間がかかっていただろう。


 しかし相手は海に住むもの全員に恐れられていた伝説の海賊。その肉体の強度はルイシャの想定を大きく超えていた。


「――――っ!?」


 足先に走る鋭い痛みに、ルイシャは顔を歪める。

 蹴りの瞬間、ルイシャは確かに足先に気を溜めた。しかしそれでもなお、バットの骨の硬度が勝っていた。


「俺は昔から骨のある男だった。それは今も変わらねえ」


 渾身の蹴りが入ったにも関わらず、バットは全くダメージを負っていなかった。

 あまりの硬さにルイシャの顔に焦りが浮かぶ。


(足の骨にヒビは……入ってなさそうだ。これならまだ戦える。だけどこんなに硬いんじゃ下手に攻撃できないね……)


 肉体を失ったスケルトンに、炎や氷などの属性魔法は有効ではない。

 頼みの打撃も効かないとなれば打つ手はほとんどなくなってしまう。


「どうした小僧。もう手札を出し尽くしたか?」

「ぐ……っ」


 ルイシャにはまだ切り札が残っている。

 それは対クロム戦で使用した『魔竜モード』だ。


 制限時間こそあるが、あれを使えばルイシャの身体能力は極限まで引き上げられる。その状態であれば、いかに硬い体を持っていたとしても、ダメージを与えることが出来るだろう。


(だけどあれを使ったらしばらくは体が動かなくなる。今この状況でそうなるのはマズい……!)


 キャプテン・バットに勝てたとして、この旅はそこで終わるわけではない。

 そもそもこの海底島から帰る方法すら見つかっていないのだ。勝てたとしても動けなくなってしまっては意味がない。


 魔竜モードは本当に最後の手段として残して置かなければいけなかった。


「……どうやら待っても面白いもんは出してくれそうにねえな。他にもここに来た奴はいるみてえだし……終わらせるか」


 ゆっくりとバットがルイシャのもとに近づいてくる。

 穴の空いたその目には冷たい殺意が宿っている。どうやら本当に終わらせるつもりのようだ。


わりぃが、死んでくれや」


 バットは強く握りしめた拳を、ルイシャに振り下ろす。

 確実に仕留めるつもりで放たれた、情け容赦ない一撃。しかしその攻撃は、ルイシャを仕留めることは出来なかった。


「……なんだよ。まだあんじゃねえか」


 バットは嬉しそうに笑みを浮かべる。

 彼の視線の先では、ルイシャが骨の拳を片手で受け止めていた。


 先程までは落ち着いた印象を受けたルイシャの表情は、変わっていた。

 目つきは鋭くなり、険しい顔つきになっている。


 放たれるオーラも穏やかなものから激しいものに変わり、バットはそのに強い殺気が刺さっているのを感じた。


「こんなところで負けるわけには……いかないんだよっ!」


 荒々しい口調でそう言ったルイシャは、バットの顔面を思い切り殴る。

 拳に鋭い痛みが走るが、気にしない。歯を食いしばり、そのままバットを殴り飛ばしてしまう。


 殴り飛ばされたバットは空中で一回転すると、ルイシャから離れた所にザザ……と着地する。回転しても勢いを消しきれなかったようで、地面には足を引きずった跡が残る。


「くく……殴り飛ばされたなんていつぶりだ? 生きてた頃でも滅多になかったぜ」


 バットは痛む顔面をさすりながらルイシャに目を向ける。

 そして強い殺気を放つ彼を見て、何をしたのかを把握する。


「なるほど。体の内の凶暴性を解放したか。普段は落ち着いている奴ほど飼ってる獣は凶暴なもんだ。それを自分の意志で解放出来るたあやるじゃねえか」


バットの推測は当たっていた。

 ルイシャは理性のタガを外し、凶暴性と身体能力を底上げした。

 冷静な判断力と、技のキレは犠牲になるが、今はそれよりも力が上がるのを優先したのだ。


「面白え。存分に殴り合おうや」

「お前はここで、俺が倒すッ!」


 二人の獣は、防御を捨て正面から激突する。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ここでさらっと最後『俺』になってるのがいいですね〜! [一言] ミニ小説とはいえハッピーエンドつくってもらえてよかったねエレナさんや…
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