第8話 Aクラス
Zクラスは学園内でも注目の存在だ。
このクラスが作られた理由こそ公にされてないが、王子が変人ばかり集めて何かしようとしていることは広く知られている。
多くの生徒はこのクラスに興味こそ持っているが敵意は抱いていない。
しかしAクラスの生徒はそうでない。
一番成績がいいはずの自分たちを差し置いて注目されてるZクラスのことを良く思っていない者も多い。
そしてルイシャたちが向かっているのはお察しの通りAクラスであった。
「わりぃな! 道ぃ開けてもらうぜ!」
先頭を走るバーンが廊下にいる生徒をどけながらAクラス目掛けて走る。
別校舎で授業を受けているZクラスの生徒が本校舎にいるのは珍しいので自然と生徒たちの注目がルイシャたちに集まる。
「おっ、あれがAクラスの教室だな。どうするルイシャ?」
「……僕があとで直すよ」
「はっ! いいねえ!」
バーンはルイシャの考えを一瞬で汲み取り、思い切りその扉を蹴り壊す。
ガッシャアン! と音を立てて扉がぶっ壊れ、突然のことに驚くAクラスの生徒。
そんな彼らの前に畳み掛けるようにルイシャと三馬鹿が現れる。
バーンはじろりと教室の中を見渡す。
どうやらほとんどの生徒が教室に揃っているようだ。おそらく犯人もこの中にいるだろう。
「おうおうおう! わざわざ売られた喧嘩を買いに来てやったぜ! お前らがやったのは見当ついてんだ! とっとと出てきやがれ!」
そう怒鳴り散らすバーンだが、犯人は名乗りをあげない。
それどころか生徒たちはルイシャたちを見てくすくす笑っている。
「……白を切るつもりみたいだね」
このクラス全員が犯人ではないだろう。
しかしその多くがルイシャたちが困っている様子が面白いのだろう。
「おやおやこれはZクラスのみなさん。どうされたのですか?」
そんな中話しかけてきたのはAクラスの中で中心的人物のハウロという生徒だ。
彼は貴族の中でもかなり家柄の高い人物で、例に漏れずプライドが高い。
「こんにちはハウロさん。実は僕たちの教室が誰かに荒らされましてね。その犯人を探しているんです」
「それは大変でしたね。でもだからといって私たちを疑うのは短絡的では?」
ハウロはニヤニヤしながらルイシャに言う。
「そもそも内部の犯行かもしれませんよ? あんな汚れ、いや趣のある校舎にわざわざ出向いて悪戯する生徒なんていませんよ。くく、Zクラスはほら、家柄の低い生徒が多いですからね。彼らを疑った方がいいのでは?」
ハウロが笑いを堪えながらそう言うと周りの生徒たちも笑い始める。
それを見た三馬鹿の面々は「こいつら……!」と殴りかかりそうになるが、ルイシャはそれを手で制する。
「ルイシャ……! 絶対こいつらだぜ! 止めんなよ!」
「今ここで殴りかかったら彼らの思う壺だよ。最悪退学にさせられかねないよ」
「だったら黙ってみてろってのかよ!」
バーンがそう言うと、ルイシャはニヤリと笑い言う。
「そんなわけないだろ? まあ僕に任せてよ」
ルイシャはそう言ってハウロの前に立つとポケットの中から一本の毛髪を取り出す。
「これは僕のクラスに落ちていた髪の毛です」
突然の髪の毛を見せられたハウロはきょとんとし「それがどうした」と言う。
「この髪の毛には微量の『塩』がついていました。そしてその成分は海の塩と一致しました。Aクラスは午前中授業で海に行きましたよね?」