第5話 海賊王
「キャプテン・バットがスケルトンになっていたなんて……いや、これは予想できたことか……!」
ルイシャが今いるのは海賊王が最後に訪れたとされている島。
そこで海賊王が最期の時を迎えたのならば、遺体も当然そこにある。他の遺体がスケルトンとして動いている以上、海賊王の遺体もスケルトンになっているのは当然だ。
「……でもなんで喋ってるの? 喋るスケルトンなんて聞いたことないけど」
「俺は昔からお喋りな漢だった……それは今も変わらねえ」
「そういう問題なのかな……」
理由になるか分からないその返事に困るルイシャ。
すると今まで黙っていたシンディが一歩、バットのもとに歩み寄る。
「……あんたがキャプテン・バットだって? 本当なのか?」
「ああそうだ、俺はつまんねえ嘘はつかねえ。……もしかして嬢ちゃん俺のファンか? ここまで来たんだ、サインくらい書いてやるぞ」
がはは、と陽気にふざけるバットに対して、シンディの表情は真剣そのものだった。
彼女がバットを見るその眼差しに込められた想いはかなり強いとルイシャは感じた。
海賊であるシンディにとって、海賊王キャプテン・バットは特別な存在であることはルイシャも分かるが、それでもその想いの強さは少し異常に感じられた。
「あんたが本物のキャプテン・バットだというなら答えな! なぜこんな海の底でスケルトンなんかに成り果てている!」
「そんなの簡単な理由だ。この島には俺様のお宝が眠っている。例え死んだ後でもそれを他人に奪われるのなんざ我慢ならねえ。だから俺様はここにいる」
バットの言葉にシンディはギリ、と歯を鳴らす。
ルイシャは彼女から強い『怒り』を感じた。
「どうせ嬢ちゃんも俺様の残した宝を狙いに来たんだろう? 悪いがあれはくれてやることは出来ねえ。大人しく帰るか……死んでくれや」
その瞬間、バットの全身から恐ろしい殺気が放たれる。
背筋が凍り、鳥肌が立つ凄まじい殺気に、ルイシャは警戒心を最大まで引き上げる。
一方シンディはというと、腰から愛用のサーベルを引き抜き、その切っ先をバットに向けていた。
「やっぱりあんたはキャプテン・バットじゃない……! その名を騙るなスケルトン!」
そう叫んでシンディは駆け出す。
ルイシャが「待ってシンディ!」と呼びかけるが、彼女は聞く耳を持たない。
「ははは、活きのいい嬢ちゃんは嫌いじゃないぜ」
「抜かせッ!」
一瞬にして目標まで距離を詰めると、シンディはサーベルを上段に振り上げ、思い切り振り下ろす。
「はあッ!!」
キィン! という甲高い音が辺りに響き渡る。
シンディのサーベルは、ガードしたバットの右腕に命中していた。
そう、命中していた。
しかし……その腕の表面でピタリと止まってしまっていた。
「馬鹿、な……!?」
振り下ろしたサーベルに力を込めるが、サーベルはピクリとも動かない。腕の骨が硬すぎてその表面に傷をつけることすら出来ていなかった。
「……俺は昔から骨のある男だった。それは今も変わらねえ」
骸骨の顔でニヤリと笑ったバットは、ガードしてない方の手で、思い切りシンディを殴り飛ばす。
とっさにシンディも防御するが、その防御ごと吹き飛ばされ、離れたところの岩に激突し、倒れてしまう。
「う、が……!?」
「んだよもう終わりか。最近のガキは脆いねえ。カルシウム取ってんのか?」
つまらなそうに呟くバット。
そんな彼の前にルイシャが立ちはだかる。
「……一つお尋ねしてもいいですか」
「へえ、仲間がやられてんるのに冷静じゃねえか。いいぜ、肝の座った男は好きだ。答えられることなら答えてやるよ」
「ありがとうございます。じゃあ……」
ルイシャは海の底まで来たその理由を尋ねる。
「ここに勇者オーガの遺産はありますか?」
それを聞いたバットは、止まる。
そしてしばらくの沈黙の後……今までの陽気な彼とは打って変わって、冷徹な雰囲気で返答する。
「そうか……それが狙いだったか。じゃあ今死んどくか、ガキ」
物語に出てくる海賊は、陽気でおおらかなイメージを持たれる事が多い。
事実そのような海賊も実在してはいる。しかしそれは海賊の一側面に過ぎない。
一切の容赦のない、海のギャング。それもまた海賊から切り離すことの出来ない要素なのだ。
ルイシャはそれを肌で感じとった。
(この反応……やっぱりここにあるんだ……!)
バットの反応を見て、ルイシャは自分の行動が間違っていなかったのだと確信する。
しかしそれを手に入れるには目の前の強敵を乗り越えなければいけないこともまた、同時に理解した。
「僕にはそれを手に入れなければならない理由があります。例え貴方と戦うことになったとしても手に入れます……!」
「やれるものならやってみな。俺は海賊王キャプテン・バット……この海最強の男だ!」
鉄の拳を握りしめ、男二人はぶつかり合うのだった。