第4話 合流
海底に沈む謎の島をルイシャは駆け回った。
不思議なことにこの島には普通に植物が生えており、呼吸も出来る。
頭上に広がる空が『海』になっていることを除けば、そこは地上と見分けがつかなかった。
「やっぱり魔道具かなにかの効果なのかな。こんなに広範囲に影響を及ぼすなんて凄い力だ」
ルイシャは思案する。いったい誰が何の目的でこんなことをしているんだ、と。
海に結界を張るだけでなく、島ごと海中に沈めるなんてただ事ではない。
よほどこの島に見られたくない物があるに違いない。
「それを見られたくないのは海賊王キャプテン・バット……なのかな? それとも別の誰か?」
お宝を見つけてほしくないから隠した。そう考えれば納得はいく。
でも本当にそれだけのためにここまでするのだろうかとルイシャは怪しむ。
この島にはまだ僕の知らない、思いもよらぬ秘密があるのではないか。そう思えた。
「……ん?」
考え事をしながら歩いていると、少し離れた場所から金属音が聞こえてきた。
耳を澄ませるルイシャ。それは刃物同士がぶつかり合う音に聞こえた。
「誰かが戦ってる!? 急がなきゃ!!」
戦っている片方が仲間である可能性は高い。
ルイシャは急いで音のする方向に駆ける。
木々の間を通り抜けた先、そこでは大量の骸骨兵士と剣を交え戦う一人の女性がいた。
「シンディ!!」
「ルイシャ! 生きてたんだね!」
戦っていたのは女海賊シンディであった。
彼女の周りに他の人はいない。どうやら彼女も一人であるようだ。
「加勢するよ!」
「助かる! こんな骨とっとと片付けちまおう!」
ルイシャは竜王剣を握り、一気にスケルトンたちを屠る。
しかしいくら倒してもスケルトンは骨をくっつけ復活してしまう。
「やっぱりキリがない!」
「何度か砕けば起き上がらなくなるみたいだけどね。この数にそれをやるのは文字通り“骨が折れる”作業だね」
「だったら……!」
ルイシャは剣をしまい、魔力を練り始める。
実は島を走りながらずっと考えていたのだ、不死の存在であるスケルトンを倒すその方法を。
「くらえ! 広囲土流!」
魔法が発動し、地面がゆっくりと動き始める。
ぐにょぐにょと動く土は、まるで大きな口を開くようにスケルトンたちを覆い、飲み込んでしまう。
当然スケルトンたちは土から逃れようとするが、彼らに土を押しのけるほどの力はない。為す術がなくどんどん飲み込まれていってしまう。
「なるほど、考えたね。倒しても倒しても復活するなら閉じ込めてしまえばいいってわけだ」
「うん。でもいつかは抜け出してくると思う。この場は離れた方がいい」
「違いない。早く仲間を見つけないといけないね」
ルイシャはシンディに近づき、状況を確認する。
「シンディは誰にも会ってないの?」
「ああ、気づいたらこの奇妙な島に一人倒れていた。どうやらみんな散り散りになっちまったみたいだね」
「そっか……僕と同じだね。みんな無事だといいけど……」
ルイシャは自分の友人の身を案じる。
友人たちはスケルトンごときに負けるほどやわではない。しかし妙な胸騒ぎがしてならなかった。
何か自分の知らない恐ろしい存在がいる……そんな予感がした。
そんなルイシャの不安そうな顔を見たシンディは、彼の肩をバシッ! と強めに叩く。
「いだっ」
「なに辛気臭い顔してんだい。あんたの仲間が強いのはあんたが一番知ってるだろう? そんな顔してたら勝てる敵にも勝てないよ?」
そう言ってシンディはニッと笑って見せる。
その笑顔は不思議とルイシャを勇気づけた。
「そうだね、ありがとう。こんなことで弱気になってちゃ駄目だよね」
「その意気だ。とっとと仲間とお宝を見つけて、こんな陰気臭いところからおさらばしようじゃないか」
「うん!」
元気を取り戻し歩き出す二人。
そんな二人の行く手を遮るように、何者かが姿を現す。
「……騒がしいと思ったら、ずいぶん活きの良いのが来てるじゃねえか」
「「!?」」
とっさに剣を構えるルイシャとシンディ。
二人の先にいたのは、一体のスケルトンであった。
しかし今までのスケルトンとは姿が全く違う。
高級感のある黒いジャケットとドクロマークが入った帽子。
背丈は二メートルを超え、その体はかなり大きい。骨の一本一本は太く並の攻撃ではびくともしないように見える。
目の部分にぽっかりと空いた穴には妖しい赤い光が浮かんでおり、ルイシャとシンディを捉えて離さない。その眼力は二人が背筋に寒気を覚えるほどだ。
明らかに今まで出会ったスケルトンとは格が違う。二人は最大限警戒しそのスケルトンと向かい合う。
「……あなたはいったい何者ですか」
「んだよ。最近のガキはしつけがなってねえな。人様に名前を聞く時ゃ自分から名乗るもんだぜ?」
明らかに知性のある返事にルイシャは戸惑う。
戦うしかないと思っていたが、もしかしたら話し合いでなんとかなるかもしれない。そう思った彼は武器をしまう。
「僕はルイシャと申します」
「……私はシンディだ」
ルイシャに続きシンディも武器を収め名乗る。
するとそのスケルトンは凶悪な顔に笑みを浮かべる。
「へえ、俺様相手に名乗るたぁ肝が座ってるじゃねえか。気に入った、名乗ってやるよ」
大きなスケルトンは片足を振り上げ、思い切り地面にドン! と下ろす。
その衝撃が凄まじく地面が少し揺れてしまう。
ルイシャたちがその怪力に驚く中、スケルトンは名乗りを上げる。
「聞いて驚け見て震えろ! 海の果てまで悪名轟く、天下無双の大海賊! 俺の前では竜が道開け鬼さえ黙る! そう! 全ての海賊の頂点に立つ『海賊王』キャプテン・バット様とは俺のことだ!」
歴史に名を残す伝説の海賊、キャプテン・バット。
その出現にルイシャとシンディは言葉を失うほど驚愕した。