第35話 受け継がれる意志
「こいつでラスト……っとお!」
「ひい、やめ――――!」
ヴォルフは命乞いをする海賊を容赦せず殴りとばす。
何十人もいた海賊たちだが、ルイシャたちには敵わずものの数分で全員のされてしまっていた。
「二人ともお疲れ、助かったよ」
「この程度造作もない。我が邪眼を開くまでもなかったな」
「はは、それは頼もしいね」
「大将はよく普通に会話できるな。まだ俺は慣れねえぜ……」
余裕といった感じで話す三人。そんな彼らのもとにシンディが近づいてくる。
「あんたたち、礼を言うよ。おかげで大事な船員を無事取り返すことが出来た。本当にありがとう」
「そんな、当然のことをしたまでだよ。ねえ二人とも」
ルイシャの問いにヴォルフとヴィニスは笑みを浮かべながら頷く。
仲間のために戦うことを迷惑に思う者は、ここには一人もいなかった。
◇ ◇ ◇
「おー、やってるやってる」
船に戻った一行が見たのは、船員たちが船に荷物を積み込んでいる所だった。
既に『歌姫の海宝堂』には寄っているらしく、船には結構な荷物が積み込まれていた。
「あ、帰ってきた。ルイー! あんたらも手伝いなさいー!」
大声でルイシャたちを呼んだのはシャロだ。
彼女も積み込みを手伝っているらしく、船の上で汗をかいている。
「お疲れシャロ。こっちは大丈夫だった?」
「ええ、何にも問題ないわよ。そっちこそ無茶してないでしょうね?」
「え。はは……たぶん」
心当たりがあります感バリバリで誤魔化すルイシャに、シャロは呆れたように「はあ」とため息をつく。
「まあ無事そうだからいいわ。はい、この荷物大きいから一緒に運ぶわよ、そっち持って」
「わかった。よいしょ……っと」
二人は仲良く荷物を持つと、船内へそれを運んでいく。
その様子をシンディは陸地から見ていた。すると、
「とうとう行くのじゃなシンディ」
「エギル爺……」
いつからいたのだろうか。彼女の後ろにはこの島の管理人、エギルがいた。
黒いローブのせいで表情はよく分からないが、その話し方にはどこか寂しさのようなものを感じる。
「幼き頃から恋焦がれ、旅立ち、追い……成長し、今、なのじゃな」
「ああ。分かるんだよ、あたしは今が最盛期ってことがね。脂もノリものってるお年頃ってやつさ。頼もしい仲間も増えたしね」
「お主の勘は当たっておる。この一年は『星が乱れる年』。通常では到底成しえぬことも叶うかもしれぬ年じゃ。お主の無謀な夢が叶うとしたら今を置いて他にはない」
「それはいいことを聞いた。エギル爺のお墨付きがあれば心強いよ」
そう言ってシンディはにっと笑う。
しかしそんな彼女とは対照的に、エギルの顔は暗かった。
「……この島の規則のせいで迷惑をかけたようじゃな。すまない」
「へ? ああ、あの根性なし共のことか。別に気にしなくていいよ、ルイシャたちが何とかしてくれたからね」
「いや、これはわしとこの島の落ち度じゃ」
深刻そうに呟くエギルに、シンディも真剣な顔つきになる。
「やめてくれよエギル爺、確かに今回は少し危ない目にあったけど、あたしは何度もこの島に助けられてる。少しくらいこんなことがあっても気にしないって」
「いや。このようなことは最近頻発しておるのだ。時代は変わった……もうこの島を本来の利用法で使う者も少ない。ここいらが『潮時』という時かもしれんな」
エギルは自嘲気味に笑う。
彼はこの島を封鎖しようとしていた。古き思い出が汚れ切る前に、隠れ島を海から消そうと考えていたのだ。
それを感じ取ったシンディは止めることはせず、ただこう言った。
「まあエギル爺がそうした方がいいと思ったなら止めないけどさ。あたしはまだ決めるには早いと思うよ」
彼女はぴょんと跳び、船に乗る。
そして地上を見下ろしながら言う。
「予感がするんだ、海はまた面白くなる。せっかく特等席から見れるってのに抜けるのはもったいないと思うぞ」
根拠はないが自信はある、彼女の言葉にエギルは「ふっ」と笑う。
「……もったいない、か。そうじゃな、せめてお主が帰ってくるまでは残して置いてやろう。帰る家がないんじゃ帰り方も分からなくなるからの」
「ああ、楽しみに待ってな。抱えきれないほどのお宝話を持って帰ってきてやるよ」
「くく、それは実に楽しみじゃ」
そう言ってお互い笑みを浮かべ、二人は別れる。
島から遠く離れていくその船を眺めながら、エギルは一人呟く。
「……よかったなウィリアム。お主の意志はまだこの海に息づいておるよ」
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