第7話 侵入者
「ひどい……いったい誰がこんなことを!?」
クラスメイトのおっとり系白魔術師ローナが涙目になって叫ぶ。
他のクラスメイトも口々に怒りを露わにする中、ルイシャだけは冷静だった。
いや、怒りを通り越して冷静になったというほうが正しいか。
まだ2週間ほどしかクラスメイトと過ごしていないが、ルイシャはクラスメイトのことが大好きになっていた。
そんな彼らを傷つける行為、とうてい許せるものではなかった。
「チシャ、ちょっといい?」
「ん? なんだい?」
ルイシャが話しかけたのはクラスメイトの一人、小人族の少年チシャ。
小柄なルイシャよりも更に小さな彼は、自分と似て童顔で背の小さいルイシャと仲が良かった。
「犯人を探す、手伝ってくれる?」
ルイシャがそう聞くと、チシャは悪戯好きな子供のような笑みを浮かべると「いいね」と笑う。
「で、僕は何をすればいいんだい?」
「きっとまだ犯人の痕跡が残ってるはず。チシャの魔法で探して欲しいんだ」
「おっけー。すぐにやるよ」
チシャは荒れ果てた教室に手をかざし魔法を唱える。
「魔法解析」
チシャがそう口にすると青白い光が教室を包み込む。
この魔法は範囲内の物を解析、分析が出来る高難度の魔法だ。本来は手につかんだ物を対象に行うものでこのように広範囲に使うことはできない。
しかしチシャは類稀なる解析魔法の才能を持っており教室を丸々覆えるほどの解析魔法を使うことができるのだ。
本来は器用な手先と身軽な体を武器にするハーフリングだがチシャにはそれらの才能がなかった。
その代わりチシャに与えられたのは解析魔法の才能。
滅多に現れない稀有な才能の持ち主だが、魔法をあまり使わないハーフリングの同族からは鼻つまみ者にされたチシャは故郷を出て王国まで来たのだ。
自分の居場所を求めて。
「さすがチシャ。範囲もすごいけど魔力の練り込み方も粗がないや」
「やめてよルイシャ、君が特訓してくれなきゃここまで上達しなかったよ」
ルイシャは仲がいいクラスメイトと放課後魔法を教え合っている。そのおかげでZクラスの魔法の腕はメキメキ上がっている。
最初は机を覆える程度の範囲だったチシャの魔法も、ものの2週間でこの上達ぶりだ。
そしてその魔法はすぐに侵入者の痕跡を捉える。
「あ、僕たちのじゃない髪の毛が落ちてるね。それにこの靴跡……これは同学年の生徒の靴だね。はは、ご丁寧に指紋まで残ってる。甘い甘い」
「……チシャは敵に回せないね。友達で良かったよ」
こうして教室荒らしの犯人の目星をつけたルイシャはその特徴をチシャに教えてもらうとすぐにそこに行こうとする。
「チシャは行かないの?」
「僕は荒ごとはパス。ま、ルイシャが行くなら大丈夫でしょ?」
彼はそう言うと再びニヤリと笑みを見せるとルイシャと拳をぶつけ合う。
「じゃあ行ってくるよ」
そう言って踵を返すルイシャの前に3人組が立ちはだかる。
「おう、荒ごとなら俺たちの出番だな!」
そう息巻くのは喧嘩大好きバーン。後ろには彼と仲の良いドカべとメレルもいる。
よく騒ぎを起こす3人はクラスメイトに「三馬鹿」と呼ばれ親しまれている。
「お、おでも怒った!」
「早く行こうよ!」
力自慢のドカベと足自慢のメレルも待ちきれないといった感じだ。
ルイシャはそんな二人を見てくすりと笑う。
「うん、Zクラスの力を見せてやろう!」
こうしてルイシャと三馬鹿は足早に犯人の元へと走り出した。