第30話 隠れ島オアフル
隠れ島オアフルに上陸したルイシャたちは、船長のシンディと共にオアフルに上陸した。
すると黒いローブに身を包んだ人物が一人、近づいてくる。
身長は小さく腰は曲がっており、フードの隙間から見える口元には深く刻まれた皺が浮かんでいる。どうやら結構なお年寄りのようだ。
老人はシンディの側に来ると口を開く。
「……よく来たなシンディ」
「わざわざお出迎えとは珍しいねエギル爺。どういう風の吹き回しだい?」
「行くのだろう? 海賊王のもとに。その前に会っておこうと思ってな」
「……驚いた。どっからその情報を仕入れたんだい?」
シンディの問いに、エギルと呼ばれた老人は答えなかった。
その不思議なオーラをまとった老人が気になったルイシャは尋ねる。
「シンディ、この人は?」
「エギル爺はオアフル島の『管理人』だ。あたしの古い知り合いでもある。もしこの島の禁を破ればエギル爺に島を追い出されるから気をつけるんだよ」
「禁って喧嘩するなってやつだよね。気をつけるよ」
そう二人が話していると、エギルはルイシャに視線を移し興味深そうに「ほう」と呟く。
「面白い子を拾ったな。お主一人では海賊王のもとには辿り着けぬと思ったが……これなら分からないかもしれんな」
「僕が……面白い? どういうことですか?」
「人には生きる筋道、俗に言う『運命』と呼ばれるものがある。何があったかは知らんがお主のそれは本来辿るはずの筋道から大きく外れておる」
エギルの言葉にルイシャはドキッとする。
確かに彼の運命はあの日、無限牢獄に落ちた日から大きく外れた。それを言い当てるということは目の前の老人はただものではない。
「筋道から外れた者には、他者の運命をも変える力が宿る。その力、気をつけて使うことだ」
「……分かりました」
老人の言葉の真意は分からない。
しかしルイシャは胸の内にその言葉を深く刻みつけたのだった。
◇ ◇ ◇
その後シンディとルイシャたちは島内に入った。シンディ以外の船員はやることがたくさんあるらしく船長とは別行動で船に残ったり買い出しに行ったりしている。
なんでも副船長であるマックがいれば大丈夫らしく、船長であるシンディだけは顔馴染みの店に行き、そこでしか買えないものを買いに行くらしい。
「それにしてもこの島、本当に海賊しかいないんだね」
島内にはそこそこ人がいるのだが、その全員が海賊だ。
彼らは昼間から酒に溺れ、島のあちこちに泥酔し倒れている者がいた。
そんな光景を見て不思議そうにしているルイシャに、シンディは話しかける。
「変なとこだろ? 見るからに治安は悪そうなのに、喧嘩一つ起きやしない」
「そうだね。でもそれってこの島は『喧嘩が禁止されている』からでしょ? それが無くなったら大変なことになるんじゃないの?」
「昔ならそうだったかもしれないけど……今はどうだろうね」
シンディはどこか寂しげにそう返事をする。
いつも強気で自信満々な彼女らしくないその態度に、ルイシャは引っかかりを覚える。
「……それってどういう意味?」
「簡単な話さ。今の海賊は腑抜けちまったのさ。
百年前……キャプテン・バットが活躍していた時代の海賊たちは尖っていた。みな自分が最強の海の戦士だって信じて毎日のように戦ってたらしい。
だから喧嘩が禁止されているオアフルは、そんな海賊たちにとって唯一休める島だった」
「そうなんだ。でも……ここにいる海賊たちはそんなにギラついてはなさそうだね」
オアフルにいる海賊たちは汚く、人相も悪いけど強そうには見えない。
そこらの盗賊とあまり変わらないようにルイシャの目には写った。
「今の海賊は商船を襲って略奪をするようなセコい海賊しかいなくなっちまった。あの頃の強くて畏れ憧れるような海賊はここら辺にはもういない。
だから私はこの海を出て外の海に行ったのさ」
「そう……なんだ」
ルイシャはおとぎ話に出てくるような海賊しか知らないが、確かにここにいる海賊たちはそれとは似ても似つかなかった。
事実オアフルにいる海賊たちは捕まらないためだけに島におり、海賊同士の対決などしないものがほとんどだった。
海の賊、という意味ではそれは正しいあり方なのかもしれない。しかし憧れるような存在ではなくなっていた。
「さて、つまんない話はこれくらいにしようか。ここが目的地さ、入りな」
「う、うん」
シンディに言われるがまま入ったのは小さな商店のような所だった。
店内には海で使うような道具が所狭しと並んでいる。羅針盤、双眼鏡、薬……他にも何に使うか分からない変な道具まで様々だ。
ルイシャはそれらにも強く興味を惹かれたが、一番興味を惹かれたのは店員だった。
「ようアーシャ、儲かってるかい?」
「客がいないのを見ればわかるでしょシンディ? あんた儲かってるんだからたくさん金を落としていきなさいよ」
シンディと仲良さそうに話すのは、赤い長髪が特徴的な女性だった。
年は二十代半ばくらいだろうか。非常に優れた容姿をしている彼女だが、その美貌よりも気になってしまうところがあった。
「あの、その体……」
「ん? どうしたのボク? 人魚に会うのは初めてかしら?」
そう言ってアーシャは自分の下半身。本来足が生えている場所にある大きな尾ひれを動かすのだった。





