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第27話 星の導き

 取り乱したヴィニスを落ち着かせたルイシャたちは、一旦死海地点を離れた。

 あのままそこにいても事態が進展するとは思えなかったからだ。


「にしても目的地が海の底とはね。七つの海を渡りきったアタシだけど、流石にそこは未経験だね」


 普通であれば諦めてしまいそうな目的地。しかし若くして海賊船を率いる女傑、シンディは楽しそうに笑みを浮かべた。

 甲板に一人立ち、海を眺める彼女にルイシャは尋ねる。


「海の底に行くアテはあるの? どんなに高速で潜っても息は続かないと思うけど」

「確かにいくらアタシでも無呼吸で泳げるのは二時間程度。とても行って帰っては来られないだろうね」

「二時間も息が持つのがまず驚きだよ……」

「海に生きる者として当然の技能さ。まあいくら息が続いても海の底までいけば水圧でぺしゃんこだけどね」

「水圧……聞いたことがある。確か海に潜れば潜るほどかかる力のことだよね。そっか、息が続けばいいってことじゃないんだ」

「へえ、陸の人にしては物知りじゃないか。その通り、海の力は人の理解を超えるほど大きい。自分の力を過信し、海の一部になっちまった馬鹿の話なんざ星の数ほどある」

「それは怖いね……」


 ルイシャは目の前に広がる大海原を見ながら、その深さと未知なる部分に恐怖を覚える。


「確かに海の奥は怖く恐ろしいところさ。でも行く方法がないってわけじゃない。色々と調達しなきゃいけないものがあるから時間はかかるけどね」

「そうなんだ、それは良かった。シンディがいてくれて心強いよ」


 ルイシャはホッと胸をなで下ろす。

 海という分野に関してルイシャたちはあまりに素人過ぎる。普通に航海するのすら大変なのに深海などとてもじゃないが、行けない。

 シンディと出会い、敵対することなく行動を共に出来ることはとても幸運なことだった。


「本当に僕たちは運が良かったよ」

「……海の人に伝わる言葉で『星の導き』って言葉がある」


 シンディは神妙な面持ちで突然聞き慣れない単語を口にする。


「星の……導き?」

「ああ。何か大きな物事が起きる時、奇跡としか言えないような出来事が重なることがままある。邪悪な王が生まれたと同時に勇者が現れたりね。それを海の人々は天に感謝を込め『星の導き』と呼んでいるのさ」

「へえそうなんだ。なんかロマンチックな話だね。シンディもその話を信じてるの?」


 ルイシャがそう聞くと、意外なことにシンディはそれを鼻で笑い一蹴する。


「まさか、運命ってのはいつだって自分で切り拓くものさ。少なくとも私はそうして来た。これまでも、そしてこれからもね」


 そう言い捨て、彼女は話は終わりだとばかりに背を向ける。その背中には強い覚悟と決意が見てとれた。


「これから必要な物資を集めにある島に行く。三日はかかるからゆっくりするんだね」

「……わかった」


 ルイシャは去りゆく彼女に、そう返事をするのだった。


◇ ◇ ◇


 最初は楽しい船旅だが、しばらく続けばそう楽しいものでもなくなってしまう。

 暇を持て余した若者たちは、船の上という限られた空間でなるべく有意義な時間を過ごせるよう工夫を凝らしていた。


「七……八……九、十っと!」


 ルイシャはそう言うと、逆立ちの体勢で行っていた腕立て伏せを終了する。

 しかもそれはただの腕立て伏せじゃない、親指一本で行う上に、重りをつけて行う竜王直伝地獄トレーニングだ。今回は船の上ということで、特に揺れが激しい船首部分で行っている。


「すげえぜ大将! もう揺れも慣れたって感じだな!」

「そうだね。最初は戸惑ったけど今なら船上での戦いもなんとかなりそうだよ」


 船旅中も飽きることなく鍛錬していたルイシャは、船の上という特異な環境にも慣れつつあった。前回海賊のドレイクに襲われた時はまだ慣れておらずうまく動けなかったが、今なら対応出来る自信があった。


「俺はまだ慣れねえんだよなあ。なんかコツとかあったりするんですかい?」

「そうだね。上半身はブレないようにピンとして、下半身は揺れに委ねる感じかな。変にバランスを取ろうとすると、全身がブレちゃうからね」

「なるほど、タメになるぜ。こんな感じか……?」


 早速ルイシャの言うとおりにバランスを取ってみるヴォルフ。すると先ほどまでよりも体のブレが急に少なくなる。


「上手い上手い! さすがヴォルフ、飲み込みが速いね!」

「へへ、大将の教えが上手いんですよ」


 和気藹々と鍛錬する二人。

 するとそんな二人の前にある人物がやって来る。


「もう二人ともすっかり船に慣れたって感じだね。たいしたものですよ」


 そう言って現れたのは眼鏡をかけた男性だった。年は二十代半ばくらいだろうか、柔和な笑みをたたえており穏やかそうな印象を受ける。

 彼の名前はマック・エヴァンス。シンドバット海賊団の副船長を務める人物だ。


「こんにちはマックさん。どうされたんですか?」

「今日は波も穏やかだからね、することがなく暇を持て余してたんだ」

「へえ、副船長ってのも意外と暇なんだな」

「こらヴォルフ! 失礼だよ!」


 ヴォルフの失礼な物言いを叱るルイシャ。

 しかしマックは笑みを崩さず、全く気にしていない様子だった。


「副船長が暇をしているのは平和な証拠さ、ちゃんと全員が役割をこなせているってことだからね」


 マックはそう言うと、懐からリンゴを取り出し左手の手の平に乗せる。


「そんな暇な私から面白いものを君たちに見せてあげよう」

「「面白いもの?」」


 ルイシャとヴォルフは同時に?マークを浮かべる。

 するとマックは空いてる方の右手の平をリンゴの側面に当てる。そして


「はっ!」


 大きな声を出す。

 するとその瞬間、手の平を当ててるだけのはずのリンゴが急に木っ端微塵に砕け散る。まるで内部から爆発したかのように砕け散るそれを見て、ルイシャは驚く。


(魔力や気を使った感じはしなかった! いったいどうやって!?)


 目を丸くする二人を見て、マックは楽しげに笑みを浮かべる。


おかにはおかの戦い方があるように、海には海の戦い方がある。勉強熱心な君たちには海の人を代表し、友好の証としてこの技を教えよう」


 マックの言葉に、二人はぶんぶんと大きく首を縦に振って応えたのだった。


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