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第26話 誘う声のその源

「おや、随分遅いお目覚めだね」


 太陽が高く上がってから姿を見せたルイシャに、女海賊シンディはにやにやと笑いながら声をかける。

 見れば他の海賊たちも同じような顔をしている。ルイシャは恥ずかしくて顔を赤くしながら答える。


「す、すみません……」

「いいのさ別に。元気なのはいいことだからね」


 彼女はそう言うと、「さて」と真面目な表情になり話を切り替える。

 途端に周りの海賊たちもお喋るを止め、仕事モードになる。


(統率が取れてる、まるで軍隊だ。昨日戦った海賊とは違う!)


 海賊と聞くとならず者の集まりのようなイメージだが、シンディ達は世界中の海を渡ってきた海のスペシャリスト達。ただの略奪者であるドレイクの海賊団とはまるで違った。


「頼もしい協力者も増えたことだし、今日、あの結界の中に突っ込もうと思う。中は何があるか分からないけど、きっと大変な戦いになると思う。それが分かってて突っ込む奴は……馬鹿だ。だからこの冒険から降りたい奴がいるなら言ってくれ、止めはしない。私はそれを非難しないし、非難させない」


 シンディは仲間たちを見回し、言う。

 訪れる静寂。

 百人を超える彼女の仲間たちは……いくら待っても名乗り出る者はいなかった。


「……そうか、どうやら私の海賊団には馬鹿しかいないみたいだな。だけど私はそんな馬鹿が大好きだ! そんなに死にたいなら着いてきな馬鹿野郎ども!」


 船長の啖呵に、部下たちは「うおおおおおおおおっっ!!」と歓声を上げて応える。

 その士気、熱量の高さにルイシャは圧倒される。


「シンディのカリスマ性は凄いね、なんかこっちまで奮い立たされるよ」

「大将も負けてないと思うぜ? 俺や他の二人だって大将の人柄と器に惚れ込んでこんなとこまで着いてきたんだ。自信持っていいと思うぜ?」

「そ、そう? そうだと嬉しいな」


 ヴォルフの言葉にルイシャは恥ずかしそうに、そして嬉しそうにはにかむのだった。


◇ ◇ ◇


 それから少しして、海賊船グロウブルー号はゆっくりと結界に近づき初めていた。

 船の先頭には船長のシンディ、そして副船長であるマック・エヴァンスとルイシャたち一行がいた。


「さて、もうすぐ結界に到着する。お願い出来るかい?」

「……ええ」


 シンディの言葉に反応したシャロは、一人船首まで歩く。

 大丈夫、手を前に出すだけ。そう分かってはいるけど彼女の手は震えてしまう。

 勇者の足跡を追うこと、それは彼女にとって大きな意味を持つ。いくら覚悟していても、その時になると心に不安が押し寄せてくる。


「大丈夫? 僕も行こうか?」


 彼女の不安を察知したルイシャは彼女に駆け寄りそう言うが、シャロは首を横に振る。


「ありがとうルイ。でも大丈夫、これはきっと私一人でやらなくちゃいけないことだから」

「……そっか、分かった。頑張ってね」


 二人は少しだけ手を握り、離れる。

 触れた時間はほんの僅かだが、それだけで彼女の震えは止まっていた。


「それじゃ、やるわね」


 船首に立った彼女は右手を前に出す。

 彼女の目に結界は見えていない。しかし、確かにそこ(・・)に何かがあるのを感じた。


 自分の血に連なる何か。

 長年秘匿されたそれが指先に触れる。


「――――っ!」


 痛みはない。

 それどころか何かに触れた感触すらない。


 しかし確かに何かが自分に触れ、そして消えたことをシャロは感じた。


「出来た……の?」

「うん、確かに結界は消えたよ」


 近づいてきたルイシャが言う。

 彼の左眼に宿っている『魔眼』は確かにその瞬間を捉えていた。


 シャロが触った瞬間、役目を終えゆっくりと消えていく結界の姿を。


「お疲れ、少し休む?」

「いえ……大丈夫。忙しいのはこれから、でしょ?」


 シャロの言葉にルイシャはそうだね、と頷く。

 まだ今回の旅は入り口に立ったばかり、むしろ大変なのはこれからだ。


「よーし、全速前進! 野郎どもとっとと働きな!」

「「「「「ヨイサホーッ!」」」」」


 シンディの号令に従い、様子を窺っていた船員たちは自分の業務に戻る。

 ぐんぐんと速度を増すグロウブルー号。結界が隠匿していた海域を切り裂くように進んでいく。


「……しかし参ったね」


 念願の結界内に入ることが出来たが、シンディの顔は浮かばなかった。


「見渡してみたけど何もないじゃないか。本当に島があるのかね?」


 彼女の言う通り、結界の中には何もなかった。

 何もない、平和な海。これを隠す必要があったのだろうかと一行は不安になる。


「……いや、ここに間違いない」


 そう声を発したのは吸血鬼のヴィニスだった。

 すっかり体調を取り戻したはずの彼だったが、その顔色はまた悪くなっていた。


「だ、大丈夫!?」

「ああ、心配しなくて大丈夫だ兄さん。頭が割れそうに痛くて視界が安定しないけど、それくらいだ」

「いやそれ休んだほうがいいよね!?」


 ルイシャはなんとか休ませようとするが、ヴィニスはそれを拒む。


「……確かに『海面』には何もいない。だが、俺を呼ぶこれ(・・)は確実に近くにいる」

「なんだいそりゃ。空に島でもあるってのかい?」


 ヴィニスの意味深な言葉に、シンディが反応する。


「『浮遊都市ムゥ』の伝説は確かに有名だけど、それと海賊王が関係してるとは思わな……」

「違う、そこ(・・)だ、やつはそこ(・・)にいる」

「へ? 何を言ってるんだあんた」


 ヴィニスの要領を得ない言葉に、シンディは首を傾げる。

 それを感じ取ったヴィニスは、痛む頭を押さえながら言葉をまとめる。


「違う、そこ(・・)っていうのは……ここ、だ」


 彼が指差したのは、下。

 果てなく広がる海。迷いなく彼はそこを指した。


そこだ。この海の底、海底に何かがいる……!」


 ヴィニスの言葉に反応し、ルイシャは魔眼で海底を見る。

 するとそこには見たこともないほど色濃く、邪悪な魔力が渦巻いていた。


「何かがいる、強大で邪悪な何かが……!」


 彼らは遂に今回の旅の目的地にたどり着くのだった。

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