第25話 一夜明けて
「んん……ここは……?」
ガンガンと痛む頭をさすりながら、ルイシャは目覚める。
体を起こし辺りを見渡すとそこは広めの船室であった。窓の外からは水平線が見える。
「そうだ、シンディの船に乗ることになって……それで……どうしたんだっけ?」
混濁する記憶を整理していると、ベッドに置いた手が何やらむにょりとしたやわらかい物に触れる。
何をつかんだんだろうと左手に目を移すと、なんと左隣りにはアイリスが寝ておりその胸をわしづかみしてしまっていた。
「うわ! ご、ごめん!」
思わず謝ってしまうルイシャだったが、アイリスはそれに気づかずぐっすりと寝ていた。
別に胸を触ってもアイリスは怒らず、むしろ喜びそうなものだが……寝ている時にそれをやることにルイシャは勝手に罪悪感を覚えた。
「なんでアイリスが……? いや、段々思い出して来たぞ……」
ここでルイシャは自分が竜酒を飲み、派手に暴れ散らかしたことを思い出す。
そしてシンディに強い酒を飲まされたルイシャはアイリスとシャロにこの部屋に運ばれ、介抱されたのだった。
「こうやって寝ているアイリスを見る機会って中々ないけど……やっぱり凄い美人だよね……」
アイリスと共に寝ることは多々あるが、そうした場合いつも彼女が先に起きて朝ご飯の準備などをしているため、明るい場所でその寝顔を見ることは出来なかった。
透き通るような白い肌、長いまつげ、金糸のような煌めくブロンド。ルイシャは村を出てから色んな人と出会ったが彼女ほどの美貌の持ち主に出会うことはなかった。
「……今でも実感わかないね。こんな綺麗な人と深い仲になれるなんて」
ルイシャは一人そう呟くと、彼女の頭を数回なでてその頬にキスをする。彼からこのようなことをするのは珍しいので、起きていれば喜びそうなものだが、残念ながらアイリスが起きることはなかった。
「シャロの寝顔は……見慣れてるか」
ルイシャは次に自分の右側に寝ているシャロに目を移す。
彼女は起きるのが遅めのタイプなので、その寝顔に特別さこそ感じなかったが見慣れたそれに心が和んだ。
二人とも寝ているとはいえ、アイリスのみにキスをしてシャロには何もしないのは薄情かな。と思ったルイシャは彼女にも顔を近づけるが……あと数センチまで近づいたところでシャロは目を開けてしまう。
「「…………」」
至近距離でかち合う二人の視線。
静まり返る部屋の中で、ルイシャは絞り出すように声を出す。
「お、おはよ……」
言いながらするすると後退するルイシャ。
しかしシャロは彼のことをつかんで止めると、いじわるそうな笑みを浮かべながら挑発的に言う。
「アイリスにはしてあげて、私にはしてくれないの?」
「う゛、起きてたんだ……」
「さあ? 何のことかしら」
そう言うやシャロは目を閉じ、赤く艶やかな唇をつんと突き出す。
敵わないな。そう思いながらルイシャはシャロと唇を重ねる。
「ん……」
漏れる吐息を吸い込むように、何度もルイシャは重ね合わせる。
最初こそ優しくしていたルイシャだったが、徐々に熱が入りシャロの上に覆い被さり激しく唇を重ね始める。
「ん、あっ……」
静かな部屋に漏れるような声と水音が小さく反響する。
じっくりとお互いの思いを確かめるように唇を重ね合った二人は、惜しむかのようにゆっくりとお互いの顔を離す。
「……ちょっと朝から盛り過ぎじゃない? 私だから許すけど普通の娘だったら嫌がるわよ?」
「ご、ごめん」
嗜めるように言うシャロだがその顔はどこか嬉しげだ。
ルイシャもそれに気付いてはいるが指摘するような無粋な真似はしない。
「……ところでまだする気なの? 昨日の夜あんなに激しかったのに」
「昨日の……夜?」
不思議な顔をして首を傾げるルイシャ。
それを見たシャロは「ああ、なるほどね」と一人納得したような表情をする。
「あんた覚えてないんでしょ」
「いや、お酒を飲んで暴れたとこまでは思い出してるんだ。でも、その先は……」
脳をフル回転させ、ルイシャは記憶を掘り起こす。
しかしどんなに頑張ってもこの部屋に入ったところまでしか思い出せず、その先は記憶に靄がかかってしまった。
「ぐう、思い出せない……!」
「それは残念ね。あんなに求められたのは初めてってくらい激しかったのに。酔っ払ってるせいかいつもより遠慮がなかったわ」
そう楽しげに語るシャロを見て、ルイシャは言葉にしにくい不快感を覚えた。
相手は自分なのにまるで寝取られたような感覚。しかしそんなことを口に出すのは恥ずかしい、ルイシャは何も言わずシャロのきめ細やかな肌に指を滑らせる。
「ちょっと何して……って、あんた、もしかして……」
口を開かず黙って行為に及ぼうとしている彼を見て、シャロは全てを察する。
「あんた自分に嫉妬してんの? ふふ、可愛いとこあんじゃない」
シャロはにやにやと笑いながら布団の中で足を絡ませる。
そして自分の上にあるルイシャの胸元に甘く爪を突き立てながら言う。
「そんなに嫉妬してるなら忘れさせてみれば?」
「……言われなくてもそのつもりだよ」
結局ルイシャたちが身支度を終え、甲板に姿を表したのは、それから三時間ほど後のことだった。