第23話 宴
「それじゃあ新たな仲間の加入を祝って! 乾杯!」
「「「「「「「かんぱーい!」」」」」」」
船長の号令に応えた船員たちが一斉に酒を飲み干す。そして各自食事をとりながら談笑を始める。一気にルイシャたちのいる食堂は騒がしくなり、その活気にルイシャたちは圧倒される。
ここは七海王シンドバットの船『グロウブルー号』の中にある食堂。
シンディと手を組むことになった彼らは船に招かれ、歓迎を受けていた。
商人フォードとは別れ、港町ラシスコに戻ってもらった。この先の旅は一般人には過酷なものになるからだ。
「どうだ? 楽しんでるか?」
ちびちびと食事を楽しんでいると、船長のシンディがルイシャ達のいるテーブルにやって来て腰を下ろす。
彼女はへそと胸元が出てる露出の激しい服を着ており、ルイシャは視線のやり場に困る。もし変な所を見たら横で目を光らせる女性二人に何を言われるか分からない。
「楽しんでますよシンディさん。どれも美味しいです」
「おいルイシャ、呼び捨てでいいって言っただろ? 短期間とはいえ、あたし達は命を預け合う仲間なんだ。距離があるといざって時に頼ることが出来ない、だからあたし達はこうやって宴を頻繁に開いて仲を深めるんだ。まあ単に酒が好きってとこもあるけどな」
彼女の言葉には説得力があった。
海では一回のミスが命を失うことに直結する。ゆえに彼女達は何よりも信頼関係を大事にしていた。
「……分かったよシンディ。これでいい?」
「ああ、上等だ」
そう言ってニッと笑ったシンディはルイシャ達一行を見渡す。
「倒れた奴……ヴィニスとか言ったか? あいつはまだ寝てるのかい?」
「うん。だいぶ落ち着いたからもう大丈夫だとは思うけどね。一応まだ安静にして貰ってるんだ」
「そうかい。海に魅入られてなけりゃいいんだけどね……」
そう言ってシンディは心配そうな表情を見せる。
そんな彼女の放った聞き覚えのない言葉にルイシャは反応する。
「海に魅入られる、っていうのはどういうことですか?」
「死海地点に近づいた人の中には、たまに不思議な症状に襲われてしまう人が出ると聞いた。海の底から呼ばれる、不思議な声が聞こえる、頭が割れるように痛む……ってな感じの症状がな」
「確かにヴィニスも『声が聞こえる』と言ってた。いったい何が原因なんだ……?」
ただの船酔いからなる幻聴と頭痛ならいいのだが、ヴィニスの様子は明らかに普通ではなかった。何かしらの超常的な影響を受けてると考えるのが普通だ。
「だとしたらあの『結界』が原因なのかな」
「まーそれが一番考えられるな。結界に近づけないよう、辺りに催眠効果のある魔法を発しているのかもしれない。まあいずれにしろ乗り込めば分かる話だ」
そう言ってシンディは拳と手のひらをぶつけ、パシッと音を鳴らす。
その姿には頼もしさを感じる。若い歳で一つの海賊団を束ねうるカリスマ性が彼女にはあった。
「ま、今悩んでも解決はしない。パーっと飲んで明日から頑張ろうじゃないか」
そう言ってシンディはルイシャのグラスに手に持った瓶の中身を注ぐ。
まるで血のような真っ赤なお酒を注がれルイシャはギョッとする。
「何これ、葡萄酒?」
「飲めば分かるさ、乾杯!」
シンディは無理やりルイシャにそのお酒を飲ませる。シャロたちは「まずい!」と止めようとするが時すでに遅し、ルイシャはそのお酒をグイッと飲み干してしまった。
「あ、あわわ」
「ん? どうしたんだお前たち」
シャロたちのただならぬ反応にシンディは首を傾げる。
そんな彼女にヴォルフは慌てた様子で言う。
「大将はお酒に弱いんだ! あんた強い酒飲ませてねえだろうな!?」
「おやそれは悪いことをした。あたしが飲ませたのは『竜酒』、竜すら火を吹く一品さ」
「なんてことを!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ中、ルイシャはゆっくりと動き出し、グラスを机に置いた。
そして据わった目で一同を見渡す。
「……ん? 意識ははっきりしてそうだけど」
「大将は酔っ払うと裏の顔が出ちまうんだ! 通称『裏ルイシャ』。前に一度寮で酔い潰れた時は裏山を吹き飛ばしたんだ!」
それはヴォルフのトラウマだった。
普段は優しいルイシャの凶暴な姿は友人たちを恐怖の底に落としたのだ。その事件以降、彼の友人たちはお酒の席ではルイシャの動向から目を離さないように気を張っている。
「クソ! しばらくこの状態になってないから油断し――――」
「うるせえぞヴォルフ、少し黙りな」
「ひ」
見れば尊敬する人が自分のことを恐ろしい目つきで睨んでいた。
その様にヴォルフはすっかり萎縮し席に座る。
「ごめんなさい」
「あら、しゅんとしちゃった」
その代わりようを見てシンディはけらけらと笑う。深刻そうな彼らと違い、面白いおもちゃを見つけたくらいの気持ちなのだろう。
一方ルイシャ(裏モード)は自分から少し離れたところに座っているシャロとアイリスに目を向ける。その睨みつけるような視線に二人は少しドキッとする。こんなに強く見られたことは今まで無かったからだ。
「なんでそんな所にいるんだ。隣に来いよ」
思いやりのないぶっきらぼうな物言い。
しかしそれすら二人にとっては嬉しいギャップになってしまった。
「しょ、しょうがないわね……」
「すぐにそちらに参ります!」
二人はルイシャを挟むように両隣に座ると、体を密着させる。
「それでいいんだよ」
満足したようにルイシャは二人の肩に手を回す。足を組み、女性を両脇に侍らすその姿はまるで悪党の親玉だ。
そんな彼の姿に他の船員たちも注目し始める。
いったい何が起きてるんだ――――と。
「ちっ、うるせえな。俺が俺の女をどうしようが俺の勝手だろうが」
暴走モードのルイシャはキレ気味にそういうと立ち上がり、船員たちに普段では絶対に言わないセリフを言い放つ。
「気に入らねえんだったらかかってきな。まとめて相手してやるよ!」