第20話 七海の王
彼女の胸元に光る王紋を見たルイシャは驚く。
「なるほど、道理で強いはずです」
「あんたも中々だよ少年。もしかしてあんたも持ってるんじゃないの? 王紋を」
「さあ、どうでしょうか?」
「ふふ、焦らすじゃないの。気の強い男は嫌いじゃないよ」
睨み合い、牽制する両者。
二人は出方を窺いながら、頭の中で何回も斬り結ぶ。達人の戦いとは斬り合う前から始まっているのだ。
剣を構え唾を飲む。その膠着を破ったのは、なんとルイシャでもシンドバットでもなかった。
「どっちも……殺せっ!」
ドレイクの号令で二人めがけで銃弾の雨が降り注ぐ。反応した二人はその場から跳んで回避する。
回避したシンドバットはドレイクを睨みつけると、苛立たしげに大声を上げる。
「ちょっとドレイク! 自分の仲間ごと撃つとは本当に下衆野郎だね!」
「うっせえシンドバット! そもそもそのガキは仲間なんかじゃねえ!」
「…………へ?」
シンドバットは素っ頓狂な声を出すと、ルイシャの方に顔を向ける。
「そうなの?」
「ええと、まあ、はい」
ここに来て自分の勘違いに気がついたシンドバットは頭を抱え「やってしまった……」と反省する。
彼女はしばらくうんうん唸った後、ルイシャに頭を下げる。
「ごめんなさい」
「は、はは……良かったです誤解が解けて」
その見事な謝りっぷりにルイシャは許すしかなかった。
「それより早くあいつらを倒しましょう。あの船が狙われてるんです」
「ふむ、ようやく状況が飲み込めて来たわ。ここはお詫びも兼ねてあたしがどうにかしてあげる」
「へ?」
シンドバットは天高くサーベルをかざす。
ルイシャがきょとんとする中、シンドバットの仲間の海賊たちがざわつき出す。
「逃げろ! 船長がアレをやるぞ!」
「嘘だろおい、またかよ!」
「ひぃーっ!」
そのただならぬ様子にルイシャは身構える。
一方シンドバットはそんなこと意に介さず、思い切り地面にサーベルを振り下ろした。
「おらっ! 竜骨断ち!」
次の瞬間、ドレイクの船が横に真っ二つに割れた。どんな荒波にも耐え、無茶な航海も乗り越えてきた船が一瞬にして真っ二つに斬り裂かれてしまった。
当然船は真ん中からゆっくりと沈み出す。ドレイクの部下たちは必死に船にしがみつくがやがて耐えきれず海に続々と落下していく。
「てめえシンドバット! 俺様の船に何てことしやがる!」
マストに掴まりながら、ドレイクが叫ぶ。かなり怒ってる様子だがシンドバットは涼しい顔でそれを聞き流す。
「ふん、あんたこれぐらいしないと諦めないだろ? これに懲りたらもう下らない悪事はやめるんだね」
「小娘風情が……! 絶対ふくしゅ
「うるさい」
シンドバットがマストを銃で撃つと、粉々に砕ける。
当然それにぶら下がっていたドレイクは海に落ちていってしまう。
「おぼえてやがれー!」
そう言い残し、ボチャンと海の中に消えていく。
残ったシンドバットはルイシャに「ついてきな」と言い、沈みゆく船から自分の愛船へと案内する。まだ少し警戒しながらもルイシャはその船へ足を踏み入れる。
「お、お邪魔します……」
船に上がり込むルイシャを、シンドバットの部下たちがジッと見てくる。
しかしそれらは好機の眼差しで敵意のようなものは感じなかった。
「やあ少年、さっきは悪かったね申し訳ない。でももう大丈夫だ、船長であるドレイクが倒れた今、他の奴らは撤退するだろう。奴に人望はないからね」
見れば他の船たちは砲撃を止め、撤退し始めていた。ルイシャはホッと胸を撫で下ろす。
「さて、えーと少年、君の名前は?」
「あ、僕はルイシャ=バーディと言います。えーと、シンドバットさん」
「そうかルイシャか、いい名前だ。よろしく」
そう言って彼女はルイシャと握手を交わす。
指は細いが、握るその手は力強さを感じた。
「あたしはシンドバット。仲のいい奴らからはシンディって呼ばれてる。よろしくね」
燃えるようなえんじ色の髪をなびかせ、シンドバット改めシンディはそう言うのだった。