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第14話 イカと会話は時間をかけて焼け

 帝王イカ騒動から少しして。

 ルイシャたちはビーチをBBQを楽しんでいた。


「はふ、はふ、もぐ……ごくん。うん、中々悪くない味ね」


 シャロは串に刺された白い物体……帝王イカのゲソ焼きを食べると満足そうに笑みを浮かべる。

 彼女はせっせとイカを焼いているヴォルフに視線を向けると、彼に労いの言葉をかける。


「いい焼き加減だったわよ!」

「おうよ! まだまだあるからどんどん食ってくれよな!」


 ヴォルフは器用にナイフでイカの身を切り、商人フォードから借り受けた網でイカの身を焼いていく。

 帝王イカは巨大なのでルイシャたちだけではとても食べきれない。なのでその身のほとんどをフォードに譲り、自分たちの食べる分だけの量と調味料、そして調理器具を貰ったのだった。


「ヴォルフ、焼くの代わろうか? 食べてないんじゃない?」

「いえ大丈夫ですよ大将。焼きながら時々食べてるんで」

「そう。でも悪いから手伝うよ」


 そう言ってルイシャはぐいと無理やり彼の隣に陣取り、手伝う。


「このタレを塗ればいいの?」

「ああ、分かりましたって大将、ちゃんとお願いしますから無理やりやんないでくだせえ」

「ふふん、最初からそうやって素直に言えばいいんだよ」

「……大将も随分図太く成長したよな、頼りになるぜ全く」


 呆れたように、そしてどこか嬉しそうにヴォルフはルイシャと仲良く並んで作業する。そして手を動かしながらヴォルフはルイシャに話しかける。


「なあ大将、このイカを倒した時のあれってどうやったんだ?」

「あれ?」

「ああ、なんかいつもより力が強くなってなかったか? あと何かおっかなかった」

「おっかなかったって……そんな風に見えてたんだ」


  ヴォルフの歯に衣着せぬ言い方にルイシャは少しへこむ。


「おっと別に悪いって言ってるわけじゃないんだぜ? ただ珍しいって思っただけで」

「うん……大丈夫。僕も慣れないことをやったって自覚はあるから」

「ならいいんだけどよ」


 しばしの無言。

 串に刺してタレを塗って焼く。そんな単純作業をしばらく繰り返した後ルイシャは口を開く。


「……誰の心にも暴力的な衝動みたいなものはあると思うんだ。普段表に出してない人でも、いや表に出してないほどその衝動は強いと思う」

「それは大将みたいに……ってか?」

「はは、先に言われちゃったね」


 ルイシャは恥ずかしそうに頬を掻く。


「僕は人を傷つけるのは嫌いだけど、体を鍛えるのは好きだし、力比べをするのも嫌いじゃない。これって矛盾してるように見えるけど、僕からしたらどれも正しい気持ちなんだよね」

「んー、難しい話はよく分かんねえが……まあ何となく分かるぜ。どんな下衆野郎にもいいところの一つくらいあるもんだ」

「はは、そうだね。だから僕の中に暴力的な衝動があるのも、まあおかしな事じゃないんだと思う。今まではこの気持ちを意識したことは無かったんだけど、多分無意識的に抑え込んでたんだと思う」


 怒りのままに動けば事態を悪化させてしまう。

 今までの戦いでも怒りを感じる場面は何度かあったが、それに身を任せることはなかった。


「でもさっき試しに怒りに身を任せてみたらさ、結構強くなったんだよね。これが多分火事場の馬鹿力ってやつなんだろうね」

「確かにあんなでけえイカを魔法も気も使わずぶん投げるんだもんな。ヒト族の筋力それは軽く超えてたぜ。でも……大丈夫なのか? 怒りに身を任せてたら何か危なそうだけどよ」

「もちろん今後は身を任せたりはしないよ。ただ怒りもコントロールして自分の力にしようと思ってる。そうすれば僕はもっと強くなれると思うんだ」


 そう語るルイシャの目は真剣そのものだった。

 その強さへの探究心、貪欲さはヴォルフが畏れを抱くほど強く、そして深かった。



「……頑張んのもいいけどよ、あんま無茶しねえでくれよ。心配なんだ、俺だけじゃなく他の奴らも同じ気持ちだ」

「……うん、気をつけるよ」


 ルイシャはそう言って笑って見せたが、ヴォルフの心のざわつきが収まることはなかった。


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