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第11話 甘える

「ん、んん……」


 深い眠りから目覚めたルイシャは、大きく伸びをする。


「なんだかいつもより深く眠れた気がするな……」


 そう小さく呟き目を開けると、そこには小さく寝息をたてすぐ隣で眠るアイリスの姿があった。

 一緒のベッドで眠ることはあるが、普段であれば彼女の方が先に起きているのでこうやって無防備に寝ている姿を見るのは新鮮だ。ルイシャはベッドから出ず、静かにその寝顔を見ていた。


「……寝てるだけなのに絵になるなぁ」


 吸血鬼はエルフと同じく美男美女の多い種族だ。

 その中でもアイリスは特に抜きん出た美貌の持ち主であり、同族から想いを寄せられることも多かった。しかし恋愛そっちに興味が薄かったアイリスは今まで告白されてもその悉くを断っていたのだ。

 それほどの美貌を持つ彼女が、自分に想いを寄せてくれていることをルイシャは嬉しく、そして誇らしく思っていた。


「えいえい」


 アイリスの白く透き通った頬を触り、優しくつまむ。

 そしてぐにぐにとつまんで離してを繰り返す。なんの意味もない戯れ。それはルイシャなりの『甘え』だった。


「……はにをひへるんでふか(なにをしてるんですか)


 流石にそんな事をしてればアイリスも目が覚める。

 口をぐにぐにされながら彼女は目を開け小さく抗議する。


「ごめんごめん。ちょっとイタズラしたくなっちゃって」

「珍しいですね、イタズラなんて。でもイタズラをするんでしたら……」


アイリスはいいながら布団の中でルイシャの手を握り、自分のもとへ寄せる。


「もっと気持ちいいイタズラをしてもいいんですよ……♡」


 まだ朝だというのにルイシャは脳内で理性の糸がブチ切れる音を聞く。

 はあ、とため息をついたルイシャはアイリスの体に手を回し胸元に顔を埋めながら抱きしめる。


「じゃあ……少しだけこうさせて」


 まるで子が親に甘えるようにルイシャはアイリスに身を預ける。

 顔に当たる柔らかい感触と、鼻腔をくすぐる甘いいい匂い。ルイシャは本当に子供の頃にでも戻った気持ちになり、凄くリラックスする。

 アイリスもそれを察し、彼の頭を優しくなでる。


 とても優しく、あたたかい時間が流れる。

 今だけはやるべき使命も、果たすべき運命さだめも忘れ、甘い時間に二人は浸る。


 しばらくそうした後……アイリスは頭をなでながらルイシャに言う。


「ルイシャ様」

「ん……なに?」

「シャロも……大丈夫ですよ」

「……どういうこと?」


 意味が分からず聞き返す。

 いったいなぜ今彼女の名前が出て来たのだろう。


「あの子も、ルイシャ様の全てを受け止める覚悟があります。あなたが甘えようと、駄々をこねようと決して失望したりはしませんよ」

「…………」


 ルイシャはアイリスの言葉に押し黙る。

 彼女はどこまでお見通しなのだろうか。と、驚いていた。

 確かにルイシャはシャロには特に弱みを見せぬよう気を張っていた。それは彼女の前では強い自分でいたいというささやかな虚栄心。アイリスはそれを見抜いた。

 そしてその上で自分を曝け出しても大丈夫だと、そう言ったのだ。


「もう充分あの子はルイシャ様のことを格好いいと思ってますよ。格好つけられるのは嬉しいですが、ずっと続けられると寂しいものです。どうかあの子にも素のあなたで接してあげて下さい」

「うん……」


 そう答えながらもルイシャは自信があまりなかった。

 自分を曝け出すのは難しいことだ。それを拒絶された時の痛みはあまりにも大きいから。


「大丈夫ですよ、何があっても私は味方ですから……」


 ルイシャはたっぷりと甘やかされながら、彼女の胸の中で小さく頷くのだった。

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