第6話 海の荒くれ者
ラシスコの船着場には様々な種類の船が停泊している。
荷物を運ぶ貨物船。魚を獲る漁船。観光用の遊覧船。形も大きさもまちまちなその船の中に、一際凶悪なフォルムの船が存在していた。
戦闘用の砲台がいくつも備え付けられており、帆には、大きな髑髏が描かれている。こんな特徴の船は一種類しかない。
海の荒くれ者、海賊の船『海賊船』だけだ。
「金目の物を根こそぎ奪え!」
ドスの効いた声で部下に命令を出すのは二メートルはある巨体の男性だった。右目には眼帯をしており体の至る所に大きな傷があることから歴戦の戦士であることが窺える。
彼の言うことを聞き、手下の海賊たちは港にある金目の物、そして食糧などを強奪していく。
海賊たちはみな手にサーベルやフリントロック式の銃を持っており、武装していない商人たちはなす術なく彼らに商品を奪われていく。
「そ、それだけはやめてくれ!」
「うるせえ!」
商人の一人が大事な積荷を身体を張って守ろうとするが、抵抗虚しく蹴り飛ばされ奪われてしまう。この世に神はいないのか……と絶望に打ちひしがれる商人。
そんな彼のもとにある人物が現れる。
「大丈夫ですか?」
「へ?」
現れたのは年端も行かぬ少年。
なんでこんな所に来ているんだ、逃げたほうがいい。そう言うのが普通だろう。
しかしその少年から言葉に出来ない頼もしさを感じた商人は、自分の直感に従い少年に頼み込む。
「か、海賊に大事な積荷を奪われたんだ! 頼む、取り返してくれないか!?」
少年は泣きそうな顔で頼み込む商人の肩を優しくポンと叩くと、力強く言い放つ。
「任せてください。いくよみんな!」
少年、ルイシャがそう叫ぶと後ろにいた仲間たちが頷き、海賊たちのもとへ駆け出す。
「ねえアイリス! どっちが多く倒せるか勝負しない?」
「悪趣味な勝負ですが……いいでしょう。では勝った方が今夜ルイシャ様と同じ部屋で寝れると言うのはどうでしょう?」
「へえ、随分な自信じゃない。その勝負、買ったわ!」
一気に地面を駆け抜け、海賊のもとにたどり着くシャロ。彼女は呆気に取られる海賊の一人の顔面にハイキックを放つ。
「ぶ……!」
「私の前でこれ以上の悪事はさせないわ!」
そのまま蹴り抜かれた男は吹き飛び、遠く離れた地面に落下する。日々修行し成長しているシャロは体術も入学当初とは比べ物にならないほど成長していた。
「やるじゃないですかシャロ。ですが私だって……!」
シャロの活躍を見て火がついたアイリスは、全身に魔力を張り巡らせる。
「血流操術、紅潮する肉体!」
技を発動したアイリスの全身は高熱化する。
吸血鬼には『血』を操る特殊な能力が備わっている。これはその能力を使ったものだ。
全身を駆け巡る血液の流れを高速化させることで体温の上昇と運動能力を向上させているのだ。普通の人間ではそんなことすれば血管が破裂してしまうが、頑丈な肉体を持つ吸血鬼であれば耐え切ることは可能だ。
「――――せいっ!」
強化されたアイリスの前蹴りを腹部に食らった海賊は勢いよく吹き飛び、海賊船に叩きつけられ意識を失う。
彼女の人並外れた力に海賊たちはざわめく。
「なんだあいつ! 化け物か……!?」
「『愛』の為、あなた方には消えていただきます」
アイリスは攻撃の手を緩めず、近くにいた海賊の首根っこを掴むと離れた所にいる別の海賊に投げつける。さながら人間ボウリングのようだ。
次々と海賊たちを蹴散らす二人を見て、ヴォルフは呆れながら呟く。
「あーあー二人とも張り切って。怖いったらないぜ」
そう言いながらも逃げようとしている海賊をヴォルフは仕留めるのだった。