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第3話 出発

 翌日。

 この日に備えてしっかりと睡眠をとったルイシャは、朝早く王城近くに泊められた魔空艇「空の女帝(ブルーエンプレス)」に来ていた。


「早いねルイシャ」


 そう言って彼を出迎えたのは王子ユーリだった。

 まだどこか眠そうな彼は時折目を擦りながらルイシャに近づいてくる。


「来てたんだユーリ」

「しばらく会えなくなるんだから見送りくらいするさ」


 ユーリはルイシャたちがどこへ行き、何をしようとしてるのかを知っている。法王国へ入る面倒臭い手続きなども彼が全部やってくれたのでルイシャはかなり助かっていた。


「ユーリも行けたら良かったんだけどね」


「ラシスコはリゾート地。確かにゆっくりするのもいいけけど君たちと一緒じゃどうせ事件に巻き込まれるのがオチだ。行かなくて正解だよ」


「強く否定出来ないのが悲しいとこだね……」


 ルイシャにも何かするたび自分たちが事件を起こしたり巻き込まれたりする自覚があった。決して自分から飛び込んでるわけではない……はずなのだが、今回もどうせひと波乱もふた波乱もあることは覚悟していた。


「ま、それも楽しそうではあるんだけど、僕も色々やることがあるからね。お土産話で我慢しとくさ。頑張れよ」


「うん。色々とありがとねユーリ」


 友人と別れの握手を交わしたルイシャは、後からやって来たシャロ、アイリス、そしてヴォルフと合流すると空の女帝(ブルーエンプレス)の中に乗り込むのだった。


◇ ◇ ◇


「っしゃあ! 空の女帝(ブルーエンプレス)、発進!」


 ヴォルフは大声で号令をかけると、魔導エンジンが起動し、ゆっくりと空の女帝(ブルーエンプレス)の船体が浮上していく。


「……何回乗ってもこの感覚は慣れないわね」


「怖いのですかシャロ? 手を握ってあげましょうか?」


「馬鹿言ってんじゃないわよアイリス。あんたは平気そうで羨ましいわ」


「吸血鬼の三半規管の強さを舐めてもらっては困ります。我々はどのような所でも平時と変わらぬ強さと速さを……」


「二人とも船酔いとか大丈夫?」


「あ、立ちくらみが」


 そう言ってアイリスはやってきたルイシャにわざとらしくしなだれかかる。

 当然ルイシャは心配し倒れ込んできた彼女を受け止める。


「大丈夫? お水とかいる?」

「いえ……しばらく抱いて頂いたら治まると思います……三時間くらい」

「ルイ! そいつ仮病よ! 騙されないで!」


 アイリスが酔ってないことを知っているシャロは、ルイシャに寄っかかるアイリスを引き離す。


「むー」

「むーじゃないわよ。あんた本当に遠慮がなくなって来たわね……」


 引き離されてしまったアイリスはシャロの手から抜けると、いつも通りすました顔をする。まるで何もありませんでしたと言わんばかりの態度にルイシャも苦笑する。


「はは、まあ元気ならいいんだけどね」


 一安心したルイシャは甲板に出て外を眺める。空を切り裂きながら高速で航空する空の女帝(ブルーエンプレス)。その姿を見た鳥は驚き逃げていく。


「今日の夕方には着くらしいね。魔空艇は速いなあ」


 王都エクサドリアと今回の目的地港町ラシスコはかなり距離が離れており、馬車で行ったら二週間以上かかる距離なのだがこの魔空艇だと一日もかからない。

 その分相当量の魔力供給がいるのだがヴォルフ以外の三人は魔力量が多いので心配はいらない。


「ラシスコにはアイリスの仲間がいるんだよね?」


「はい。私の従兄弟なのですが……少し変わっていますのでお気をつけください」


「変わってる?」


「はい。悪い子ではないのですが本当に少々変わっていて……能力もあって信頼できる子ではあるのですが……」


 眉を下げ困ったように言うアイリス。

 こんな彼女は珍しい。よほど変わった人なんだろうなとルイシャ推察する。


「でも他の吸血鬼に会える機会ってあまりないから楽しみだな。仲良くなれるといいけど」


「仲良く……そうですね……仲良く……」


 アイリスは首を捻り怪訝な顔をする。

 そこまで。そこまで変な人なのかとルイシャは不安になりながらラシスコに向かうのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] テスさんやリオさんと同じように、シャルちゃんとアイリスちゃんの絆も(いろんな意味で)これからも強くなっていきたいです。彼らはまた、主人公がいない場合は、たむろして一緒にデートする必要がありま…
[一言] 事件に巻き込まれるついでに旅行するらしいw
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