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第2話 芽

 

 放課後。次の日からの冒険に備えて色々買い出しを行ったルイシャは、一旦自室に戻ったあと男子寮の裏手に向かっていた。

 時刻は夕方であり外で遊んでいた生徒たちがまばらに寮に戻ってきている。

 寮の裏手は芝生が広がっており、日中は昼寝をしたり魔法の特訓をする生徒などがいるが流石にこの時間にもなれば誰もいないだろう、そう思っていたルイシャだったが、その予想は外れることになる。


「あ、ルイシャじゃん。今日は来ないのかと思ったよ」


 そう声をあげたのは小人族ハーフリングの少年チシャだった。

 彼の横には知と筋肉の使徒(自称)のベン、さらにワイズパロットのパロムもその場にいた。


「二人とも来てたんだ」


「まーね。乗りかかった船だし最後まで面倒は見るよ」


 そう言ってチシャは自分の横にある小さな畑に目を移す。それはルイシャが帝国の最強剣士クロムから貰った種を植えた畑だった。チシャとベンはこれを育てるのを手伝っていた。


「最初は暇だから手伝ってたけど不思議と育てている内に愛着が湧いてきたよ。ねえベン?」


「うむ。それにこの植物、実に興味深い。植物図鑑は一通り目を通したのだが種類が分からない。いったいどう育つのか検討もつかない……!」


 眼鏡を光らせながらベンは楽しげに言う。

 謎の種を植えて約半月。芽が出て順調に育ってはいるのだがその種類は分からないままだった。危ない植物じゃないよね……と不安な気持ちもあるルイシャだったが、友人が手伝ってくれるし愛着も湧いている。それに育った姿も気になるので献身的に水やりなどの世話をやっていた。


「順調に育ってはいるんだけど……やっぱりこの子だけは調子が悪そうだね」


 ルイシャの目に止まったのは一つの芽。

 植えた種は全部で十個あるのだが、順調に育つ九つの芽と異なり、その芽だけは明らかに成長が遅かった。茎は細く葉も少ないその芽は強い風が吹いただけで抜け落ちてしまいそうであった。

 ルイシャはその姿に過去の自分を重ねてしまう。


「ねえベン、この子なんとか出来ないかな?」

「うーむ。本来であれば間引くべきだと思うが、ルイシャの気持ちもよくわかる。そうだな……何か強い栄養を与えることでも出来たらいいのだが」


「強い栄養?」


「ああ、モンスターの素材の中にはそれを摂ったものの性質を変えてしまうほど強い効果を持ったものがある。漆黒蛇ブラックサーペントの肝や仙樹鹿せんじゅじかの角などが有名だな。しかしそれらは高い上に滅多に市場に出回らない。冒険者に依頼すれば可能性はあるかもしれないが、望みは薄いだろう」


「そっか……」


 ルイシャは残念そうな様子で、ひ弱な芽の元に座り込む。

 なんとかしてあげたい。諦めず自分を鍛えてくれた師匠たちのように、自分も諦めたくない。そう思ったその瞬間、ルイシャはあることを思いつく。


「ねえベン、竜の血って効果あると思う?」


「む? それはあるだろう。竜の血と言ったら万病の薬と昔は言われていたほどだ。まあ普通の人間が飲めば効果が強すぎて逆に体を壊してしまうらしいけどな」


「そっか……」


 神妙な面持ちで自分の掌を見る。その体の中には竜族と魔族の血が流れている。

 無限牢獄の中で徐々に二つの種族の血を混ぜられたルイシャはその血に完全に適応している。そのおかげでルイシャは本来ヒト族が扱えないはずの両族の技を扱うことができるのだ。


 つまるところルイシャの血には力が宿っていることになる。


「このまま放っておいたら枯れちゃうのは時間の問題だ。だったら……」


 ルイシャ指先を軽く齧ると、ダメ元で自らの血を一滴、その芽に垂らした。魔力と気をふんだんに混ぜ込んだその血は、葉っぱに当たるとみるみるその中に吸い込まれていった。


「これで少しは強くなってくれるといいけど……」


「どうしたのルイシャ、ずっとしゃがみこんで」


「ああ、ごめんごめん。それよりチシャ、申し訳ないんだけど明日から王都を出るから畑の世話とパロムにご飯をあげるのだけお願いしてもいい?」


「しょーがないなあ、僕も忙しいんだけど……って言いたい所だけど滅茶苦茶暇してるから全然いいよ。帰る故郷もないし夏休み中はずっと王都にいるつもりだからね。ルイシャはまたどっかで暴れてくるんでしょ? 好きだねえ」


「僕も好きで暴れてるわけじゃないんだけどね……。まあとにかくありがとう。パロムもごめんね」


 ゆっくりとパロムの首元を撫でると、その大きな頭をルイシャに擦り付け甘えたような声を出す。パロムも戦闘能力は低くないが今回の旅はあまりにも危険が大きすぎる。連れて行くという選択肢はなかった。


「ところでベンも休み中は王都にいるの?」


「そのつもりだ。図書館で気になっていた本を読み尽くすつもりだ」


「へえ〜」


「おい、なんだルイシャそのニヤついた顔は。決してやましいことなどないぞ私は!」


「安心してよベン、僕は口が固いからさ」


「ぐむむ……覚えてろよ」


 以前ルイシャは図書館で仲良さそうにしていたベンとローナの姿を見たことがある。きっと休み中も二人は仲を深めるのだろう、ルイシャはそう思ってはいたが口には出さない。なぜならそれが男同士の友情だから。


「……なんだその気色悪いウインクは」


 しかし肝心のベンにはその友情は伝わっていなかった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 学園が謎植物に呑み込まれないといいけど…w
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