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第58話 種まき

 王都に戻り一週間の時が経ち、ルイシャたちはそれぞれの日常に戻っていた。

 天下一学園祭に優勝したことで少し有名になった彼らは王都内で話しかけられることが増えたが、それも最初の数日間だけ、一週間もすると元の日常に戻っていった。


 平穏な暮らしに戻ったルイシャは放課後、寮の裏にある開けた場所で新しい趣味に身を投じていた。


「よいしょ、よいしょ、うん。これくらいでいいかな」


 耕された土地を見て、ルイシャは満足そうに頷く。

 額に浮かんだ大粒の汗を拭おうとすると、すかさず横にアイリスがシュバっとやって来て汗を拭いてくれる。


「お疲れ様です、汗をお拭き致します。熱中症になられては危険なので水分を摂って下さい」


 冷たい水の入った瓶をぐいっと押しつけられ、ルイシャはそれを貰い一気に飲み干す。

 火照った体に冷たい水が吸い込まれていき、体が喜ぶのを実感する。


「ふう、ありがとうアイリス」


 礼を言い瓶を返す。

 するとそんな二人から少し離れた場所でルイシャが飼っている巨大な鳥、ワイズパロットのパロムは興味深そうに畑を眺め、クチバシで突こうとしていた。


「あ! ダメだよ突いちゃ!」


「くえっ?」


 呼び止められてパロムは動きを止める。

 寮生のアイドルと化しているパロムはよく話しかけられるので、前よりも更に人間の言葉を深く理解できるようになっていた。


「いいパロム、この中には種が埋まっているんだ。土を掘り返しちゃったら育たなくなっちゃうからやっちゃダメだよ」


「クエッ」


 了解、みたいな感じの鳴き声で返事するパロム。

 それを見てルイシャは満足そうに頷く。


「早く育つといいな。パロムも世話をするの手伝ってね」


 ルイシャのお願いにパロムは元気よく肯定の鳴き声をあげる。

 仲良さそうにじゃれあう一人と一匹に近づきながらアイリスはルイシャに尋ねてくる。


「ルイシャ様、気になっていたのですがそれは何の種なのですか?」


「そういえば言ってなかったね。この種はクロムさんに貰ったんだ、なんの種かは『育ってからのお楽しみ』だって教えてくれなかったけど……ってめっちゃ嫌そうな顔するじゃん!」


「してません」


 言葉では否定しているがクロムの名前を聞いた途端アイリスは露骨に嫌そうな顔をした。

 帰ってから数日間、アイリスはルイシャにベッタリだった。最近ようやく落ち着いたかと思ったが、やはりまだクロムに対し良くない感情を持っているようだ。


「あの女が渡した物だったんですね……この畑、焼き尽くすべきか……」


「ちょっと落ち着いて! 種に罪はないから!」


 ルイシャの必死の説得の甲斐あり唐突な焼畑は中止される。


「はあ、アイリスはいつもはまともなのに変なスイッチが入ると暴走するよね」


「……誰のせいだと思ってるんですか全く。それより終わったのでしたらお体を綺麗に致しましょう、土だらけじゃありませんか」


 土で汚れた制服を手で払うと、アイリスはガッチリとルイシャの腕を掴み引っ張る。


「一人で大丈夫だって、大浴場で綺麗にするから」


 魔法学園には生徒なら誰でも使える大浴場が寮に併設されている。

 寮住みの生徒のほとんどはそこを使っているのだが、中には例外もいる。


「いいじゃないですか部屋のお風呂で、せっかくお風呂つきの部屋になったのですから」


 ほとんどの寮生の部屋には風呂は付いてない。

 しかし一部の生徒、具体的には成績優秀者のみがいるAクラスとルイシャ達の在籍するZクラスの生徒のみは風呂つきの部屋を選択することができる。

 もちろん狭くて大浴場のように広々とは使えないが、機能はしっかりとしておりルイシャもよく使っている。


「部屋のお風呂もいいけどさ……今そっちに入ったら、アイリスも一緒に入ってくるでしょ?」


「当然です、ルイシャ様のお体を洗うのも私の大事な業務の一つですから」


 それがなにか。とでも言いたげな表情でアイリスは言い放つ。

 その堂々たる態度にルイシャはため息をつく。


「自分で洗えるって言ってるじゃないかいつも。恥ずかしいからやめてよ」


「しかしこの前は大変喜ばれてらっしゃったじゃないですか。あんなに顔を赤くし大きな声を出されて……」


「ちょっとそんな話を外でしないでよ!」


 ぎゃいぎゃい騒ぎながら歩き出す二人。

 そんな二人を見てパロムは(相変わらず仲良いなあ)と思うのだった。


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