第55話 プレゼント
激闘明けて朝。
ベッドの上のクロムはまるで大きな戦闘を終えたかのごとく、疲れた様子でぐったりと寝そべっていた。
「す、すごかった……」
とても満足げにクロムは呟く。
一方ルイシャはと言うと疲れてない訳ではないが意外と元気そうであった。
「大丈夫ですか?」
「あんなに激しくしておいて大丈夫ですかとは随分いじわるなことを言うね君は」
「す、すみません。つい……」
ルイシャが赤面すると、つられてクロムも頬を赤く染める。
彼女に流されるまま行為に及んでしまったルイシャだが、手加減するのは失礼だと思いつい全力で相手をしてしまった。その結果すっかりクロムは骨抜きにされてしまった。
「いいんだ。私も普通の村娘に憧れたことがないわけじゃない。普通に恋して家族を作る生活。もう手に入らない故に眩しく感じる。君に抱かれている間、一瞬だがその気持ちを感じることができたよ」
そう言ってつつ、とルイシャの体を指先でなぞる。
「よく鍛えられた私好みのいい体だ」
そう言ってルイシャの右胸辺りに優しく口づけをする。
そして照れた風にして顔を離すと、今度はルイシャの唇にキスをする。
「ん……。ふふ、こんな乙女じみたことをやることになるとはな。馬鹿らしい行為だと思っていたが、やってみると案外楽しいものだ」
そう言って楽しそうに笑った彼女は、ルイシャの頭を抱き寄せ、自分の胸に埋める。
顔面全部がやわらかいそれで塞がれてしまったルイシャは急いで顔を上に向け、呼吸を確保しようとする。
「ぐ、むむむ……ぷは。いったいどうしたんですか?」
「なあルイシャ、やっぱり私と一緒に帝国に来ないか?」
冗談には聞こえない本気のトーンでクロムは尋ねる。
彼女の本気を感じたルイシャはすぐに断ることはせず、その話をしっかりと聞く。
「私と来てくれたら君の望む物をなんでも用意しよう。金なら無駄にあるからね。私のサポートをしろとは言わない、無理に戦ってくれとも言わない。……ただそばに居てくれるだけでいいんだ。……どうかな?」
普段の彼女の姿からは想像もつかない、弱々しげで儚い表情。
そんな顔で頼まれてはとても断りにくい。それにその誘いはとても魅力的に見えた。
綺麗で強い彼女の元で悠々自適な日々を送る毎日。きっとその生活にはなんの苦悩もないのだろう。
村に住んでいた頃の彼ではあれば断る理由は何もなかった。しかし今の彼には背負っているものがある。
「……とても魅力的な提案ですが、今はお受けすることができません。僕にはやらなきゃいけないことがあるんです」
毅然とした態度で断る。
これはいくら言葉を並べ立てても説得するのは無理そうだと感じたクロムは、少し悲しげな顔をした後、「わかった」と承諾する。
「『今は』無理だと言って貰えただけで十分だ。君のやらなきゃいけない事とやら無事に終わった後またアタックさせていただこう」
「ありがとうございます。よいお返事ができるかは分かりませんがお待ちしてますよ」
二人はお互いの顔を見合って笑い合う。
出会って日の浅い二人だが、死闘を繰り広げ、体を重ね合わせる内に確かな絆が芽生えていた。
「そうだ、ルイシャは今は何か欲しいものはないか?」
「へ? どうしたんですか急に」
「いや一緒に来てくれないのだったらせめて何か贈ろうと思ってね。それがあれば離れ離れになっても私のことを思い出せるだろう? 私はこう見えてお金持ちだからな、なんでも言ってみるといい」
「うーん……そんなこと言われても特に欲しい物は思いつきませんですね」
「無欲だな君は。ふむ、私も色々贈られることは多いが贈ったことはないからどういうものがいいのかは分からないな……」
頭を捻り、クロムは思案する。
自分が贈れる一番いい物。数分ほど考え込んだ後、彼女は一ついいものを思いつく。
「そうだ、あれならきっと君も喜ぶぞ!」
名案を思いついたクロムはルイシャにその素晴らしいプレゼントの名を教える。
そのあまりに予想外な代物に、聞いたルイシャは驚愕する。
「えぇっ! そんな物あげて大丈夫なんですか!?」
「まあ私は滅多に使わないし大丈夫だろう。皇帝に小言は言われることはあるかもしれないがいつものことだから構わないよ」
「皇帝に怒られるって、それやばいんじゃないですか……」
「嬉しくない……か?」
上目遣いでかわいい感じで尋ねられ、ルイシャは「う゛」と言葉に詰まる。
そしてしばし悩んだのち、結論を出す。
「嬉しい……です」
「よし、決定だな! 楽しみしてろよ!」
本当に貰ってしまっていいのだろうか……?
そう不安に思いながらも、ルイシャはそれを貰える事にワクワクしてしまうのだった。