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第53話 皇帝

 思わぬ人物の登場に困惑する両陣営。

 特に第三の眼(サードアイ)のリーベはその人物が本当に皇帝その人なのか懐疑的だった。


「こんな所に皇帝陛下がいらっしゃるとは到底思ませんね……。変装、あるいは魔法による幻影などと考えた方が現実的です」


「その割には声が震えているぞ、第三の眼(サードアイ)の魔法使い。本当は分かっているんじゃないのか? 私がヴィヴラニア帝国皇帝、コバルティウス・アグリシヴィアその人なのだと」


「ぐ……」


 その人物の放つ、独特のオーラに押され、リーベは怯む。

 それは他の魔法使いたちも同じで戦力的には優位なはずなのに、なぜか不利な状況になった気になってしまう。

 丸腰の男が一人現れただけ、それは分かっているのに本能が彼に逆らうなと命令してくる。


「か、仮に貴方が本物の皇帝陛下だとしても関係ありません。少し眠っていただき宿までお運びすればいいだけのこと。もちろん帝国学園の生徒とクロム殿には何も致しません。それであればたいした報復は出来ないはず」


 皇帝にルイシャを庇う理由はない。それが分かっているリーベはなるべく目の前の男を刺激しないよう、言葉を選びながら話す。

 リーベの言葉に皇帝は「ふむ」と顎をさするとクロムの方に顔を向ける。


「彼はこう言ってるがどう思う?」


「はい陛下、その提案はクソであります」


「わかった、じゃあその提案は却下しよう」


 そう短く言い切ると、彼はずんずんとクロムたちの方に歩を進める。

 もちろんその途中には第三の眼(サードアイ)の面々がいるわけだが、気にする様子はない。

 しかしこのまま黙って通られるわけにはいかない、リーベは意を決すると皇帝の通り道に割り込みその行く手を塞ぐ。


「……ほう、私の道をこうも大胆に塞いできたのは君が初めてだよ」


「こ、ここを通すわけには……行きません! いくら皇帝あなたが相手だろうとこの千載一遇のチャンスを逃すわけにはいきません。彼は魔法界の希望なんです……!」


「ふん、そこまで入れ込んでるならこのような手でなく方法を考えればいいものを。向こうから入れさせてくれと懇願させなければその組織は成長しないぞ?」


「ぐ、簡単に言う……!」


「簡単には言ってないさ。現に私はそうしてきた、そしてこれからも、な」


 ポンとリーベの肩に手を置き退かせると、皇帝は再び歩き出しルイシャ達の所へ辿り着く。


「帰るぞ」


 その頼もしい言葉にクロムと生徒達は力強く頷く。

 一方ルイシャは本当に自分も一緒に帰っていいのかとあたふたする。


「えとー……僕もご一緒していい感じなのでしょうか?」


「一人増えたところで変わらんよ。それに……随分ウチの者が世話になったようだからな。前よりもいい風貌かおをするようになった、君のおかげだ」


「は、はあ」


 ルイシャを加えた皇帝一行は堂々と帰宅を始める。

 第三の眼(サードアイ)の面々はそれを黙って見守ることしかできなかったが、リーベただ一人はやはり納得できずその行く手を塞ぐ。


「やはり……やはり黙って見ている事など出来ない! 私一人が後で処刑されることになったとしても……その少年だけは頂いていく!」


 ギラギラした眼で言い放つ。

 その意思は固く、とても言葉だけでは引き下がりそうにはない。しかし皇帝はここに至っても冷静さを崩していなかった。


「それ以上近づかない方が良い。君も今死にたくはないだろう」


「……どう言う事ですか」


「君は本当に私がこんな夜中に一人で歩いているとでも思ったのか? いるんだよ、とびきりの護衛がね」


「そんなもの何処にも……!?」


 辺りを見渡すが、土と岩しか見当たらない。

 魔力探知を試みるも少なくとも近くには魔力は感じ取れなかった。


「見えないのは当然、彼らの名前は……そう、『帝国特務暗殺者エンパイアエッジ』。姿を完全に消すことの出来る暗殺集団だ。私に少しでも触れれば彼らの刃は君とお仲間の首を切り落とすだろう」


 そんなの嘘だ。

 喉まで出かかったその言葉をリーベは飲み込む。この皇帝ならばそのような護衛がいてもおかしくない。何より部下を助けるため単身乗り込むような人物ではないはずだ。護衛がいた方がむしろ自然。リーベはそう考えた。


「……教えてください、ではなぜ今すぐ私の首を落とさないのですか?」


「簡単な話だ、君のところの総帥たぬきじじいには貸しがある。それだけだ」


「そう……ですか」


 疑わしいところはいくらでもある。

 しかしリーベはいくら考えても皇帝に勝つビジョンが見えなかった。


 道を明け渡し、目の前を過ぎ去っていくルイシャの背中に彼は言葉を投げかける。


「今は引こうルイシャ君。しかしいずれ必ず君は我々の元に来る。魔導の道を進むのであれば我々の道は必ずまた交差する。その時は総帥も含めてゆっくりお話しようじゃないか」


「……次は落ち着いてお話ができることを期待しますよ」


 ルイシャの返事に、返事は帰ってこなかった。


 こうして一行は無事誰一人欠けることなく街に戻るのだった。


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