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第51話 第三の勢力

「き、キツかった……」


 勝負が終わり、ドッと押し寄せる疲れ。

 魔竜モードを解除したルイシャは疲労感に負けその場に膝をつく。


「うう、体中が痛い。……でも、あのクロムさんに勝てたんだ」


 目の前に倒れるのはヒト族最強と呼ばれる剣士。

 それに勝ったということはルイシャは今のヒト族の中でも最強ランクに達したということになる。

 それを実感したルイシャは、胸が熱くなるのを感じる。男であれば一度は世界最強を夢見る。心優しいルイシャでさえもそれは例外ではなかった。


「お互い……ボロボロだな」


 見れば大の字に倒れたクロムが目を開けていた。

 それを見たルイシャはぎょっとする。


「もう目が覚めたんですか。どんな体力してるんですか」

「君が優しく壊してくれたおかげさ」

「いや思いっきりやったんですけどね……」


 ははは……と苦笑いするルイシャ。

 やはり世界最強クラスの人は体の作りからして違うのだなと痛感するのだった。


「起きれますか? 肩を貸しますよ」

「すまない、それではお言葉に甘えようかな」


 ふん。と力を入れてルイシャはクロムを起こす。

 まだ足はふらつくが人を一人支えるくらいならなんとかなりそうだ。

 それよりも気になるの時折当たる胸だ。クロムのほどよく大きい胸は歩くたびにルイシャの体にぷにぷにと当たってその形を変えていた。


「……」

「どうした少年、顔が赤くなっているぞ」

「……」

「いったい何から目を逸らして……ははあ、そういうことか。このおませさんめ」


 そう言うクロムも顔が赤くなっていたがルイシャは指摘しなかった。


「さ、歩きますよ。街まで遠いですから早くしないと」


 現在二人がいる場所はセントリアからかなり離れてしまっている。元気な時であればひとっ飛びできる距離ではあるが、今の二人は疲弊しきっている。

 朝までにつかないと流石に人目について変な噂が立ってしまう。なので早く移動しようとするのだが、数歩進んだところでルイシャの足が止まる。


「どうした?」


「……誰かいます」


 辺りを警戒するルイシャ。

 すると岩陰から一人の人物が現れる。


「こんばんは、二日ぶりですね」


 現れたのは緑のとんがり帽子とローブに身を包んだ男。

 ルイシャはその人物に見覚えがあった。


「あなたは確か第三の眼(サードアイ)のリーベさん、でしたよね。なんでこんな所に……」


 その人物はルイシャを自分の組織に引き込もうとした

魔術研究組織第三の眼(サードアイ)の人物だった。

 なぜ彼がここにいるのか。前回あった時むりやり拉致されそうになったルイシャは警戒する。


「驚きましたよ。夜寝ようとしたら遠くから異質な魔力を感じて思わずベッドの上で叫んでしまいました。何事かと思い来てみれば貴方とクロム殿が戦っておられるではありませんか。いやはやあれほど素晴らしい戦いは見たことがありませんでしたよ。本当にいいものをみさせていただいた」


 彼はそう言って拍手をした後、真剣な表情をする。

 突き刺すような視線を感じたルイシャは体を強張らせる。


「あんなものを見せられては、ますます貴方を返すわけにはいかなくなってしまった。その才能を腐らせるなど人類の損失に他ならない。お疲れのところ申し訳ないですが、無理矢理でも連行いたします」


 そう言って右手を上げると、どこに隠れていたのかリーベと同じ緑色のローブを着た男たちが二十人ほどルイシャたちを囲むように現れる。

 全員その手には杖が握られており、その先端はルイシャとクロムに向いている。魔力も既に込められていていつでも撃てるといった感じだ。

 それを見てクロムは「はっ!」と不機嫌そうに笑う。


「手負い二人にこの人数で囲むとは随分第三の眼(サードアイ)も落ちぶれたようだ」


「お二人の実力は先の戦いを拝見してよく知っています。この戦力でも足りないと感じてしまうほどお二人は強い」


「だったら諦めたらどうだ? 命は惜しいだろ?」


「だからこそ勝てる可能性の高いこのチャンスを逃すわけにはいかないのですよ。安心してください、クロム殿はちゃんと帝国にお返し致します。しかしその子だけは絶対に連れて帰ります。例え四肢を切り落としてでもね」


「……どうあっても引く気はないようだな」


 交渉の余地がないと確信したクロムは、ルイシャの肩に回していた手を離し自分の足のみで立つ。そして服の中に隠し持っていた短刀を取り出し右手でしっかりと握る。


「……私が突っ込んで退路を作る。君はその隙に逃げるんだ。街中まで入れば助けも来るだろう」


「そんなことは出来ないですよ! その傷で戦ったら死んじゃいます!」


「君のおかげで私の渇いた心は潤い、色を取り戻した。本当に感謝している。剣を振るうだけで何も得ることの出来なかった人生に初めて価値を見出せた。その恩は……ここで返させてもらうっ!」


 ルイシャの制止も聞かずクロムは走り出す。

 狙いは一番近くに立っていた第三の眼(サードアイ)の一人。

 一歩足を踏み出すごとに悲鳴を上げる体に鞭を打ち、とても手負いの状態とは思えぬ速さで接近したクロムは無駄のない動きで短刀を突き出す。


「ぐっ、防壁ウォルド!」


 しかしクロムの攻撃は男が作り出した魔法の防壁に阻まれる。

 いつもであればこの程度の魔法簡単に貫けたが、疲弊したクロムの突きは簡単に弾かれてしまう。


「しまっ……」


 大きな隙を晒したクロムに三人の魔法使いが杖先を向ける。

 もはやこれまで。そう思い死を覚悟するクロムだが、その瞬間なんと三人の男が地面に崩れる。

 彼らが倒れた代わりに現れたのは見覚えのある軍服に身を包んだ人物たち。彼らはふらふらのクロムを支えると、彼女を守るように陣形を取る。


「お前ら、なぜここに……?」


「細かい話は後です、今はただ……守らせてください」


 そう言ってクロムの教え子たち、帝国学園の生徒は尊敬する師を守るため剣を抜き放つのだった。

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