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第48話 楽しい殺し合い

 地面が砕けるほどの脚力で駆け出すルイシャ。

 すると黒いマントの形が変わり、二対の羽に変化する。


 その羽を動かし地面スレスレを飛行して近づいたルイシャは右の拳に竜族のみが使える気功、『竜功』を集める。


「竜功術、攻式一ノ型『竜星拳』!」


 竜族の間では『星殺し』とも呼ばれている至高の正拳突きがクロムを襲う。

 見るからにヤバい一撃、クロムは自身の背中に悪寒を感じるが、逃げることなく剣を構える。


「こんないい攻撃もの、逃げたら損だな……!」


 激突する拳と剣。

 その衝突が生み出した衝撃は凄まじく、お互いの体は吹き飛ばされてしまう。


 しかし両者はすぐに態勢を立て直すと再び攻撃に移る。


「うおおおおおッッ!!」

「最高だルイシャ! もっと、もっと殺す気で打ち込んでこいッ!」


 常人であれば一撃で跡形もなく消し飛んでしまう威力の攻撃が、雨のように大地に降り注ぐ。

 その荒野は数秒ごとに地形が変わり、戦う前とはおよそ似ても似つかぬほどに風景が変わっていた。


「竜功術、攻式三ノ型……迦具槌子かぐつち!」


 クロムの頭上に跳んだルイシャは、両足を揃えて思い切り振る。

 本来竜族が尻尾で行う動作を足で再現したその技の威力は、元となった気功術の『不知火』を大きく上回る。


 クロムは剣でガードするが、全てを受け止めることが出来ずに吹き飛ばされ地面を転がる。


「はぁ……はぁ……どうだ……?」


 立ち上がらないでくれ。

 そんなルイシャの願いも虚しく、クロムは立ち上がる。

 疲れた様子ではあるがその足取りはしっかりしている。


 クロムは立ち上がると爽やかな笑みを浮かべながらルイシャに話しかけてくる。


「はは、楽しいな! 君もそう思わないか!?」


「……僕はそんな余裕ありませんけど」


「そんなことないさ、現に今の君はいい顔をしてるよ」


「!?」


 指摘されて気づいたが、ルイシャの顔は確かに笑みを浮かべていた。

 そのことに気づいたルイシャはショックを受ける。


「そんなにショックを受けることはない。磨き上げた技を、肉体を、それを受け止めて貰える者に全力でぶつける。それ以上に楽しいことなんてこの世にないのだから」


「……あまり同意したくはありませんが、一理あります」


 暴力は嫌いだ。

 しかし戦い自体が嫌いなのかと言われると、素直に否定しづらかった。


「恥じることはない。力を振るいたい、戦いに勝ちたいと言う気持ちは人間の本能。どんな聖職者だって豪華なローブの下に汚い本能を隠しているものさ」


「……僕が思っているより貴方は大人なんですね。まさかそんなことを言われるとは思いませんでした」


 クロムの言葉に驚くルイシャ。

 ただの戦闘狂だと思っていたが、目の前の戦士はちゃんと一本芯の通った考えを持つ大人だった。


「ふふ、おだてたってこの戦いを中断するつもりはないぞ。こんなに高揚するのは初めてなんだ。街を三つ滅ぼした飛龍を討伐した時も、帝国を乗っ取ろうとした盗賊王を殺した時も、地上を征服せんと海の底からやってきた海底人を殲滅した時も! ……ここまでは昂らなかった」


 脳裏に浮かぶは幾千の戦いの記憶。

 自分が存分に力を振るえる敵を探し続けていた。しかし皇帝の側近という立場に縛れたクロムは自由に動くことが出来ず中々強敵と巡り会うことが出来なかった。

 戦闘中毒バトルジャンキー。常に強敵との戦いを熱望していたクロムにとってルイシャとの出会いは砂漠でオアシスにたどり着いたに等しい幸福だった。


「戦いは私にとって最初は生きるための手段でしかなかった。貧民街スラムで生まれ育った私にとってはな。しかし、戦いを重ね、死線を乗り越える内に、手段はいつしか目的に変わり、地獄のような特訓と戦いの日々を経て生きる目的へと姿を変えた。戦いこそが私にとって生きる意味、さあ存分に――――あいし合おう」


 顔いっぱいに残忍な笑みを浮かべたクロムは駆ける。

 己の生きる意味を果たすために。

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[一言] 盗賊王と海底人が気になる…
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