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第47話 覚醒

「まずはお手並み拝見、これくらいでどうかな……っ!」


 クロムは強く地面を蹴り、距離をつけると剣を横薙ぎに振るう。

 ルイシャはそれを竜王剣の腹で受け止めガードするが、ガードごと吹き飛ばされてしまう。


(重……っ!)


 ガードのタイミングは完璧だった。

 だというのに全身に鈍い痛みが残り、剣を握る腕が痺れる。

 クロムは筋骨隆々な見た目ではない。それどころか顔は中性的でとても力が強そうなタイプには見えない。

 しかしその細く引き締まった体から放たれる剣閃は、地上で戦った過去どの戦士よりも強く、逞しく、凶暴であった。


「どうしたっ! 受けるだけしか出来ないのか!?」


「ぐっ……!」


 降り注ぐ剣閃の数々を避け、捌き、防ぐルイシャ。

 必死に隙を探るがあまりの剣速について行くだけでやっとであった。


「どうにかして反撃しなきゃ……」


「余所見禁止!」


「しまっ」


 隙を探ることに必死になったルイシャの隙を突き、クロムは鋭い蹴りを放つ。

 腹部に深々と突き刺さったクロムの足先はルイシャの腹筋をものともせず、腹筋それが守っていた臓器にダメージを与える。


(この距離はヤバい……何とか距離を取らないと)


 腹部を襲う痛みに必死に耐えながらルイシャは何とか距離を取る。

 そして右手に魔力を溜めると一瞬で魔法を作り出し、放つ。


四連火炎クァドファイア!」


 四つの火球が一斉にクロムに襲いかかる。

 その一つ一つが容易に人を焼き殺せる威力を持っている……が、クロムは退屈そうに剣を一振りしてそれらをかき消してしまう。


「おい、そんな魔法では私の注意を引くことすらできないぞ。もっと本気で、全部で来い! それら全部を真正面から叩き潰してやろう!」


 傲慢不遜な態度でクロムは言い切る。

 その言葉には絶対的な『自信』が感じ取れる。事実クロムは目の前の障害を今まで全て斬り(・・)越えて来た。

 自分に斬れないものはない、そんな絶対的で揺るがない自信がクロムにはあった。


「これならどうだ! 超位火炎フォル・ファイア!」


 巨大な火球が轟音を立てながらクロムに飛来する。

 しかしその魔法すら剣を軽く振るだけで一刀両断され、霧散してしまう。


「よく練られたいい魔法だが……それだけだ。こんなに斬りやすく撃たれれば目を瞑っていても斬れる。お前の魔法には殺意が足りないんだよ……っ!」


 クロムは再び地面を蹴って急加速し、接近してくる。

 今度は上段からの振り下ろし。ルイシャは横に跳び避けるが、そこに蹴りの追撃が迫る。


「守式五ノ型、金剛殻っ!」


 咄嗟に右腕を硬質化させ、クロムの鋭い蹴りを受け止める。

 体を鋼の如く硬くさせる技、金剛殻。その硬さは達人の剣ですら弾くことができるほどだ。


 しかしクロムの蹴りは達人の剣(それ)よりも鋭かった。

 まるで蹴られた箇所が弱点なのかと感じるほど、その蹴りはルイシャの右腕に激しい痛みを与えた。

 メキキ、と骨にヒビが走る嫌な感触。何とか後ろに跳んでダメージを分散させたことにより重傷は免れたが、もしあのままその場にいたら腕はへし折れていただろう。


「はぁ……はぁ……」


「なんだ、もう息が上がってるのか? そんなんじゃ誰も助けることは出来ない、友も、恋人も……己でさえもな!」


 三度目の突撃、今度はルイシャの鳩尾を狙った突き。

 目にも止まらぬ速さで繰り出されたその突きは、寸分違わずルイシャの胸を貫……かなかった。


 当たる寸前、体をほんの僅かに動かして回避したルイシャは、竜王剣をクロムめがけ振るう。


「ははっ、いいねえ!」


 楽しげに笑いながら竜王剣を避けたクロムは再び蹴りを放つ、するとルイシャも対抗し右の回し蹴りを放つ。

 両者の蹴りが激突し、バリリ! と辺りに衝撃波を撒き散らす。


 クロムの蹴りを脛に受け、ルイシャは足が千切れるかのような痛みを受けるが、歯を食いしばり必死に堪えて拳を放つ。

 クロムはそれを左の手で弾くと、剣を握った右手をルイシャの首元めがけ振るう。


「当たる――――かぁっ!」


 脱力。

 全身の力を一気に抜いたことでその場にしゃがみ込んだルイシャはその一撃を躱すことに成功する。

 クロムは剣を降った直後で隙が出来ている、またとない千載一遇のチャンス。ルイシャは大技に出る。


「我流気功術……鉄隕靠てついんこう!!」


 肩から背中にかけてを金剛殻で硬くさせ、足は気功移動術『縮地』を使い高速移動。

 二つの気功術を同時使用することで硬質化させた背中を思い切り相手にぶち当てる。


 早い話が背中を使った体当たりだ。シンプルだが威力は十分。

 それをマトモに食らったクロムは三メートルほど吹き飛び……華麗に着地した。


「今のは中々いい攻撃だった。やはり君はいいものを持っている」


 素直な賛辞。

 しかしルイシャはその言葉を受け取らなかった。


「いや……僕はこのままじゃダメだ」


「ん? どういうことだ?」


「こんな風にいちいち苦戦していたら、いつまで経っても二人を助けることは出来ない。いつまでも大切な人たちを守ることが出来ない」


「話が読めないな……。君の年でそれだけ強ければ十分じゃないか」


「僕が選んだ道は普通じゃないから。このままじゃ駄目なんです。優しいだけじゃ、甘いだけじゃいつか大切な人を失っちゃうかもしれない。だから僕は……今ここでヒトを捨てる(・・・・・・)


 ルイシャは深く腰を下ろすと、両の拳を深く握る。

 そして体内の魔力、そして気を胸の将紋に全て集める。


「な、なにが起きてるんだ……!?」


 ルイシャから放たれる尋常ではない魔力と気の奔流に、クロムは驚き目を見開く。

 それほどまでにルイシャから放たれる魔力と気は常軌を逸していた。


「予感は少し前からありました、でも怖くてその一歩を踏み出せずにいた。踏み出してしまったら二度とヒトには戻れないんじゃないかって。でもそんなこと大切な人を失うことと比べたら些細なことなんだと貴方と戦って気づけました。ありがとうございます」


 ルイシャはそう礼を言うと、最後の切り札、その名前を口にする。


「魔竜モード、起動オン


 その言葉を口にした瞬間、ルイシャの体から黒いオーラのようなものが漏れ出て、形を成していく。

 頭部のそれは鋭利で曲がりくねった角となり、下半身のそれは太く強靭な尻尾の形へと変わる。魔族と竜族、どちらの特徴も併せ持っている角と尻尾は彼がどちらの力もしっかりと継承した証だ。


 そして残りの黒いオーラがまるでマントのように首元に巻きつき、ルイシャの体を覆う。

 最後に……ルイシャの胸元の将紋の光が、青色から銀色に変わる。


 それはルイシャの将紋が完全に覚醒した証。

 今彼は魔竜士から魔竜将へと進化を遂げた。


 先ほどまでより大人びた感じの風貌になったルイシャは、その澄んだ鋭い目をクロムに向けるとその場で拳を構える。


「いったい何を……」


 両者の距離は十メートルほど離れている。

 この距離から何ができるのかとクロムは困惑する。


 そんなクロムを他所に、ルイシャはその場で拳を放つ。


「魔拳……竜王っ!」


 音速を超える速度で放たれたその拳はとてつもない衝撃波を生み出し、遠く離れたところにいるクロムを吹き飛ばす。

 数十メートル吹き飛ばされながらも何とか着地に成功するクロムだが、その口元からは一筋の血が垂れている。さすがにクロムでも無傷では済まなかったようだ。


「はは……なんだ、やれば出来るじゃないか!!」


「ここからが本当の勝負です! 僕の本当の全部で……貴方を倒すッ!」


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― 新着の感想 ―
[一言] 将紋に種族変化の効果なんてあったっけ? いずれにせよ、ルイの人間関係なら、ちょっと人間やめるくらい気にするほどの事ではないような
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