第45話 祝杯
決勝が終わった日の夜、ルイシャたちは宿舎にある大きな庭で優勝記念パーティーを行っていた。
パーティーと言っても人が大勢集まるようなものではなく身内だけの小規模なものだが、優勝したおかげでたくさんの豪華な食材を貰うことができ、クラスメイトたちはそれを自ら炭火で焼き、食べていた。
「ふう」
たくさん食べて満腹になったルイシャは少し離れたところ行き芝の生えた地面に座ると、遠目にクラスメイトたちが楽しそうに騒いでいる様子を見ていた。
「どうした、こんな所で黄昏れて」
声の方を見るとそこにはユーリがいた。
珍しいことに従者のイブキは横にいない。
「ユーリこそこんな人気のないところにどうしたの」
「なに、我が王国の英雄に礼を言いに来ただけだよ」
ユーリはそういうとルイシャの横に腰を下ろす。
地面の芝は濡れているが気にしている様子はない。これが人心掌握術なのだとしたら凄いな、とルイシャは思った。
「まずは……ううん、なんかこう……改まって礼を言うのも気恥ずかしいな。あったばかりの頃ならすんなり言えたんだけどね」
「友達に真剣にお礼を言うのも違和感あるからね。別にお礼なんて大丈夫だよ、今回のことは僕にも頑張らなくちゃいけない理由があったんだし」
「でもその理由がなくても頑張ってくれただろう?」
「……バレた?」
「ああ、バレバレだ」
二人は顔を見合わせて笑い合う。
まだ出会って四ヶ月ほどしか経ってないが、まるで長年連れ添った友人のように二人は仲良くなっていた。
「いや、そんなこと関係なく礼を言うべきだね。ありがとうルイシャ、君のおかげで王国は益々発展を遂げる。来年の魔法学園にはたくさんの有望な新入生が入ることだろう。……ま、君ほどの奴は来ないだろうけどね」
「いやあ分からないよ? 来年はもっとすごい子がポンポン入ってくるかも」
「やめてくれ、そんなの胃がいくつあっても足りないよ」
「違いないね、ふふっ」
他愛無い話をしばらく繰り返し一息ついたところでユーリは立ち上がる。
「さて、そろそろお暇しようかな。さっきは茶化したが君に感謝しているのは嘘偽りない事実だ。困ったことがあれば何でも頼ってくれよ、王子としては聞き入れられないことでも友人としてなら応えられることもある」
そう言い残してユーリは去っていった。
そして彼と入れ替わるようにしてやって来たのはシャロとアイリスだった。
シャロは既に出来上がっているようでふらふらと千鳥足で歩いている。そんな彼女をアイリスは仕方なさそうにサポートしていた。
「るいしゃ! こんらとこで何ぽけっとしてんろよ!」
「はは、こりゃたくさん飲んだみたいだね」
「私がついていながら申し訳ありません……」
くっ、と悔しそうにするアイリス。
ルイシャはそんな彼女からシャロを受け取り背中におぶる。
「シャロは僕が部屋まで送ってくるよ、アイリスはみんなと楽しんでてよ」
「しかしそんな……」
「あ、じゃあこれ『命令』ね。アイリスはここに残ってみんなともっと仲良くなること! ……てね。難易度の高いミッションだけど出来る?」
「……命令と言われれば仕方ないですね。わかりました、必ずやその任務果たしてみせます」
むん、と気合いを入れたアイリスはみんなの輪の中に戻っていく。
その姿は数ヶ月前の誰とも喋らなかった彼女の姿とは似ても似つかない。
「大丈夫、今のアイリスならきっと出来るよ」
ルイシャはその後ろ姿にそう呟くと、宿舎の中に入っていった。