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第43話 決勝戦

 少し時は遡り第一試合会場。

 天下一学園祭の決勝戦が行われるその場所には大勢の観客が押し寄せ最後の戦いを今か今かと待ち望んでいた。


 いよいよ決勝戦が始まる時間となり、帝国学園の生徒が出てくると観客のボルテージは更に上がり会場を揺らすほどの歓声が場内を包み込む。


「きゃー! ジェロさまー!」

「こっち向いてーっ!」


 観客から送られる黄色い声援に、帝国学園首席ジェロジア・イエローストーンは笑顔で手を振り返す。

 その度に彼の女性ファンからは絶叫にも似た歓声が上がる。


「やれやれ、全くすごい人気だね。さすが帝国学園うちの首席様だ。羨ましい限りだよ」


「ふん、別にこんなのいいものじゃないさ。イメージを崩さないよう努めなくてはいけないから気が抜けなくてむしろいい迷惑だよ。帝国学園のイメージアップのため仕方なくやっているだけ、あんな有象無象に好かれても意味はない」


「は、モテる奴のセリフは違うね」


 呆れた様子でジェロジアのクラスメイトの一人は肩をすくめる。

 成績優秀で戦闘訓練でも毎回トップをひた走る彼は帝都ではちょっとした有名人だ。ルックスの良さも拍車をかけ、学園内ではもちろん学園外にもファンがいるとの噂だ。


 しかし彼はそんなこと全く興味がなかった。

 欲しいのは敬愛する皇帝陛下とその側近クロムのからの評価のみ。それ以外は全て彼にとって些事であった。


「……どうやら向こうの班はうまくやってるみたいだな。一人も通さないとはやるじゃないか」


 開始時刻になっても魔法学園の生徒は現れなかった。

 少しづつ会場がざわつく中、その真相を知っている帝国の生徒たちだけは落ち着いていた。


「飯に帝国軍が愛用する特性麻痺毒を混ぜるって言ってたからな。大型魔獣だって半日は動けなくなる代物だ、魔法で作ったわけじゃなくて天然のキノコや毒草で作ってるから魔法での回復も難しい。たかが一学生があれをくらって無事でいられるはずがない」


「そうだな……」


 既に勝ったとばかりに余裕そうにしている二人の帝国生徒と違い、リーダーのジェロジアだけは目を険しくしていた。


「どうしたんだよ、そんなに殺気だって」


「……クロム様が魔法学園の生徒の一人に興味を持っておられた。それだけが気にかかってな」


「いくらなんでも気にしすぎだろ。強いったって学生レベルだろ? 仮にそいつだけがここに来れても俺たちに勝てるわけがない。むしろ普通に三対三で戦っても俺たちが負ける確率は限りなく低いはずだ。準決勝までは普通に戦って危なげなく勝ててたんだからな」


「ああ、分かってる。これが杞憂だってことくらい」


 魔法学園に勝つためジェロジアは万全を期した。

 本当ならばルイシャをクロムの目の前で叩き潰してやりたがったがその気持ちをぐっと抑え、確実に勝つための工作をした。

 抜かりはない、そのはずなのに胸のざわつきが収まらなかった。


『えー、魔法学園が開始時間になっても来ないので、あと一分待って来なかったら残念ながら魔法学園の不戦敗となったぜ』


 実況のお知らせに会場内のあちこちからため息が漏れる。

 決勝戦が戦わないで終わるなんて前代未聞であり、この結果はエクサドル王国の評判を大きく落とすことが予想された。


「……つまらない幕切れだが、あの落ちこぼれ共にしては頭を使ったな」


 VIP席に座っていたクロムは興味なさげに呟く。

 散々焚き付けたのだから何かするとは思っていたが思ったよりもつまらない結末に落ち着きそうでクロムはがっかりしていた。

 そんなクロムの姿を見て近くで座っていた皇帝のコバルディウスは尋ねる。


「おい、なんで魔法学園の生徒は来ないんだ?」


「多分ウチの生徒が邪魔したんでしょうね。つまらない真似をする」


「ああなるほど……ってええ!? ウチの生徒がやったの!? それって不味くない!?」


「まあ確実に王国とモメはするでしょうねハハハ」


「ハハハじゃないよ! 誰がその処理すると思ってんの本当にいい加減にああ胃が痛くなってきた……」


「大変ですねえ」


「めっちゃ人ごとじゃん……」


 落ち込む皇帝。

 頼むから来てくれ、そんな彼の願いも虚しく時間は刻々と過ぎていく。


『えー、残り十秒!』


 会場内に実況のペッツォの声が響く。

 流石にもう間に合わないだろう。観客たちの中に諦めムードが漂い始め、中にはもう帰り支度を始める者すら現れる。


 胃を痛める皇帝。

 つまらなそうに足をぶらつかせるクロム。

 誰も来る気配のない入場口を見てようやく険しい表情を緩めるジェロジア。


 そしてカウントが残り二秒を切った頃……それは現れた。


 試合会場を震わせるほどの爆音。

 それは突如上空から高速で落下して来た何かが試合会場の中心に激突した音だ。


「な、なんなんだいったい……!?」


 まるで隕石が落下したかのような事態に驚く観客たち。

 そんな中ただ一人クロムだけは楽しそうに笑っていた。


「くくく、そうだよなぁ……そう来なくっちゃ!」


 舞い上がる砂煙が晴れるとその中から人影が現れる。

 もちろんその中にいたのはルイシャその人だった。

 彼の顔からは普段の温和そうな表情は消え失せ、熟練の戦士を彷彿とさせる顔をしていた。


「どうやら間に合ったようだね」


 紙一重間に合ったことを察知したルイシャは対戦相手の方に視線を移す。


「お待たせしました。少しトラブルがあって遅れてしまいました」


 その肝が冷えるように冷たい言葉に、帝国の生徒は体が冷たくなるのを感じる。

 ナイフの腹で首元を撫でられる感覚に足がすくむ。


 しかしリーダーのジェロジアだけは楽しそうに笑う。


「……来てくれて感謝するよ。少し予定は狂うが貴様だけはこの手で屠らないと気が済まん!」


「気が済まないのはこっちのセリフだよ。お前らは手を出しちゃいけない仲間ものに手を出した」


 両者の間に火花が走る。

 譲れないものをかけた戦いがここに幕を開ける。



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