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第39話 期待と嫉妬

 ヴィヴラニア帝国の帝都、ディベルティア。

 そこには帝国最大の教育機関「帝国学園」が存在する。


 帝国学園は帝国国民の育成機関だ。帝都で生まれた者及び帝国領土内で生まれた有望な者は、みなこの学園に強制的に入学させられその適性及びランクを測定させられる。

 凡庸な者は三年で基本的な読み書きと一般常識を叩き込まれ解放させられるが、何かしらの適性を強く持った者は三年以上学園に在籍し、その分野を徹底的に鍛え上げられたのち帝国で働くことになる。

 一見すると将来が勝手に決められてしまうこのシステムは無情にも見える。しかし帝国で働くと言うことは将来安泰が約束されたも同然の事なのだ。

 給料は高く、福利厚生は良く、その他特典も満載とくれば国民は必死になって成績上位を目指す。


 帝国学園はさまざまな学科コースがあるが、その中でも花形なのが「兵士コース」だ。

 そこの首席ともなれば学生全員の憧れの的なのだが……そんなみんなの憧れの的、帝国学園兵士コース首席ジェロジア・イエローストーンは扉の前で額に汗を浮かべ緊張していた。


「よし……行くぞ」


 覚悟を決めた彼は、意を決して扉を開く。

 そして扉の先にいる人物を確認すると学帽を脱ぎ、頭を深々と下げる。


「失礼いたします。ジェロジア・イエローストーン、報告に上がりました」


「あー……そうか。何の用だ」


 ジェロジアが頭を下げた人物は興味なさそうに用件を聞く。

 高そうな革張りの椅子にどかっと座っているその人物は帝国では知らない者はいない超有名人だ。

 “帝国のつるぎ”クロム・レムナント。ヒト族最強の剣士と名高いその人物は皇帝の騎士であると共に帝国学園の教師でもあるのだ。


「は、無事我ら帝国学園は三回戦四回戦共に勝利し決勝戦に歩を進めました。明日の決勝戦も勝利し帝国学園の強さを知らしめたいと思っています」


「そ」


 たった一言そっけなく返したクロムは目を閉じ昼寝を開始してしまう。

 あまりにもぞんざいな態度、普通であれば怒るべき場面だがジェロジアは全く怒ってないなかった。

 それどころかむしろ誇らしいと感じていた。偉大な帝国の剣と同じ部屋にいられるだけで彼の心は満たされていた。


 しかし無常にもその至福のときは終わりを迎える。


「あ、そうだ。決勝の相手はどうなったんだ?」


「決勝の相手は王国の魔法学園になりました。四回戦の試合は見ましたが勝てない相手ではないと思います」


「ふーん、そうか。決勝ともなればも出るかな、実に楽しみだ」


 楽しげに笑みを浮かべるクロム。

 それを見たジェロジアは不服そうに表情を曇らせる。


「……失礼を承知で質問致します。もしかして魔法学園に気になる生徒でもいらっしゃるのですか?」


「なんだ嫉妬してるのか? くく、男の嫉妬ほど醜いものはないぞ。しかしそうだな……嫉妬それのおかげで強くなれるのであればそれも一興、か」


 楽しそうにくつくつと笑うクロム。

 一方ジェロジアは苛々を募らせているようでどんどん顔が歪んでいく。


「質問にお答えください。クロム様は魔法学園の生徒に期待しているのですか?」


「ああ、そうだよ。この前面白い子を見つけてね……名前は……そうだ、ルイシャとか言ったかな。彼はいい戦士になりそうだ。ぜひ帝国学園に入って欲しいものだ」


「…………っ!」


 ちらと自分の生徒を見てみると、唇を強く噛み締め顔を真っ赤にさせていた。

 自分ではなく他国の生徒が誉められているのが余程応えたのだろう。今まで見たことのない生徒の顔にクロムは満足そうに笑みを浮かべる。


「で? 明日はそんな有望な子が出るのだが本当に勝てるのかな?」


「か、勝ちますともッ! そんな何処の誰とも知らぬ生徒、我が校には要らぬことを証明して見せますともッッ!」


「ふうん、そうかい。じゃあ明日は見に行こうかな。楽しみしてるよ」


「はい。必ずや師に勝利を捧げます」


 ジェロジアは再び深く頭を下げるとクロムに背を向け部屋を出ようとする。

 するとクロムはそんな彼の背に言葉を投げかける。


「おい、半端な勝利はいらないぞ。何をしてでも(・・・・・・)圧倒的な勝利をするんだ」


「…………はい。必ずや」


 力強く言い切り、扉を閉める。

 一人残された部屋の中でクロムは一人笑う。


「さて、どうするルイシャ? 頼むから私を失望させないでくれ給えよ」


 その部屋の明かりは夜遅くまで点いていたという。

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