第1話 登校
魔法学園合格発表日。
ルイシャとシャロは二人で学園に向けて歩いていた。
「いたた……まだ腰が痛いわ」
「大丈夫? 回復魔法かけようか?」
何気ない会話をしながら歩く二人。
その周りには彼らと同じく魔法学園に向かって歩く受験生がたくさんいるのだが、彼らはみな好奇の目で二人を見ていた。
それも当然、受験したほとんどの者は二人の決闘を目の当たりにしている。同年代でありながら規格外の力を持つ二人は既に学生の中で最も話題に上がる存在なのだ。
本当は話をしてみたいと思う生徒たちだがある者は怖がり、ある者は尊敬しているため話しかけられる人は全然いなかった。
しかし何事にも例外はある。
「ふうん、お前らが噂の受験生? なんだ全然弱っちそうだな」
そう言って話しかけてきたのはガラの悪い三人組の男たちだった。
「何よあんたら。初対面なのに礼儀がなってないわよ」
「へへ、俺たちも同じ受験生だよ。それよりあんたが噂の勇者様の子孫だろ? なんだ思ったより可愛いじゃねえか。そんな弱そうな男よりも俺たちと一緒に行こうぜ」
男たちは下衆な笑顔でシャロに近づいてくる。
シャロはそんな男たちを力強く睨みつけるが、彼らは全く意に介さない。
なぜ彼らがここまで強気かと言うと、それはルイシャ達の決闘を見てないからだ。
早めに試験を終わらせて帰った彼らはルイシャ達の実力を知らず、後から噂だけ聞いたのだ。
そして話題で持ちきりになってる二人が気に入らずこうして絡んできたのだ。
「あんた……それ以上近づくと斬るわよ」
「へへ、そうツレナイこと言うなよ」
シャロをなめきっている男はその腕をつかもうと手を伸ばしてくる。
そしてその手がシャロに触れるその寸前、男の手は横から伸びてきた手に掴まれ止まる。
「悪いね、その子は僕のなんだ」
男の手をつかんだのは勿論ルイシャだ。
ルイシャは男の手をはねのけると、シャロの腕をつかんで自分の胸に引き寄せる。
「ちょ、ルイ!? 人前でやめてよ!」
真っ赤になって怒るシャロだが内心は満更でもない。
いやそれどころか憧れていたお姫様のような扱いをされて喜んでいる。
「王子様気取りか? つくづくムカつく野郎だ」
「別にそんな大層なものになったつもりはないんだけど……。まあいいや、まだやるなら相手になるよ」
そう言ってルイシャは拳を構える。
それを見た男たちは挑発されていると感じ、全員でルイシャに襲いかかってくる。
「痛い目に合わせてやるよ!」
拳に魔力を纏わせ殴りかかってくる男。
ルイシャはその男の懐に潜り込むとその腕を掴み、背負い投げをするように地面へ顔面から投げ飛ばす。
「がぶ!」
男は地面に顔面を強打すると、情けない声をあげてそのまま気絶してしまう。
今ルイシャの使ったのは気功術、守式六ノ型『柳流』。相手の力の流れに気を流し込んで力の流れの向きや強さを変えてしまう技だ。
しかしそんなこと知らない男の仲間たちは超高速で叩きつけられる男を見て戦慄する。男たちの方が体格はいいのに目の前の小さな少年がとてつもない達人に見える。
「く、くそっ! こうなったら魔法で攻撃だ!」
残された男二人は火の玉を作り出しルイシャに放とうとする。
「こんな街中で大きな魔法をだすなんて……! 他の人に当たったらどうするつもりなんだ!」
あの程度の魔法なら食らったところで問題ないが流れ弾が人や民家に当たったらマズい。
ルイシャは手の平に小さな岩の塊を魔法で作り出し、二人の頭部目掛けて射出する。
「極小岩石追尾弾!」
放たれた拳ほどの大きさの岩は、吸い込まれるように二人の頭部にガン! と音を立てて命中する。
頭に衝撃を受けた男たちは「きゅう」と可愛い声を上げて昏倒する。命に別状はないだろうがしばらくは目を覚まさないだろう。
ルイシャは気絶した3人を通行の邪魔にならないよう道の端に移動させると、シャロの元へ駆け寄っていく。
「じゃあ行こっか」
そう言って手を握ってくるルイシャに、シャロは赤面しながらこくりと頷いて返す。
こうして二人は仲良く学校へ向かうのだった。
ちなみに気絶した生徒たちは発表に間に合わなかったため入学できなかった。