第28話 第三回戦
天下一学園祭二日目。
ルイシャは試合会場に続く選手用通路を友人のヴォルフとバーンと共に歩いていた。
「うう、体が痛い……」
ルイシャは疲れた様子で腰をトントンと叩きながら歩いていた。ヴォルフはそんな彼を見て心配そうに声をかける。
「大丈夫ですか大将。昨日の一回戦の疲れですかい?」
「いや、ははは……昨日の夜、ちょっとね……」
そう言ってルイシャは上を見上げ切なげに目を細める。ヴォルフはその言葉の意味が分からず首を傾げるが、バーンはなぜルイシャが疲れているのか分かり「ぶふっ!」と笑ってしまう。
「どーやら余程搾り取られたみたいだなルイシャ、モテる男はツラいねえ。羨ましい限りだぜ」
「ははは……」
バンバンと背中を叩かれながらルイシャは歩く。
やがて通路を抜けると三人は第一闘技場にたどり着く。相変わらず観客席には観客がすし詰め状態だ。その熱気は昨日よりも高い。
「いい具合にあったまってるじゃねえの。燃えて来たぜ」
「へっ、気合い入りすぎて空回んなよバーン。お前はすぐ調子乗っからな」
「うっせえお前も同じタイプだろうがヴォルフ。俺の心配よりもまず自分の心配をしたらどうだ?」
「まあまあ二人とも落ち着いてよ……」
軽口を叩き合いながら三人は階段を登り闘技場のリングに足を踏み入れる。するとそこには既に対戦相手の三人が待ち構えていた。
「ここまで勝ち上がって来てくれて嬉しいよ。船での続きをしようか」
突き刺すような鋭い視線をルイシャに向けながら、若き獣牙の生徒クルイークはそう吐き捨てる。
「なんだあの偉そうなのは。ルイシャ顔見知りか?」
「うん。セントリアにくる途中魔空艇の上で会ったんだ。商国ブルムの対大型モンスター特殊部隊『牙狩り』。その戦士を養成する学園が『若き獣牙』なんだ」
「へえ、つまり……強えってことだな? 俄然楽しみだぜ」
両学園の生徒たちが闘技場の中央に集まると実況のペッツォが声をあげる。
『さあ! 三回戦第一試合、フロイ魔法学園VS牙狩り養成学園若き獣牙の試合を始めるぜッ! 両学園ともに圧倒的な実力差で他校を圧倒し三回戦まで順調に勝ち上がって来ている! どちらが勝つか俺にも全然予想がつかない!』
ペッツォの実況通り若き獣牙は一回戦二回戦共に相手校に何もさせず勝利を収めている。観客の間では優勝してもおかしくないと評判だ。
『それじゃあ早速ゥ――――試合開始ッ!!』
試合が始まった瞬間、クルイークは素早く二人の仲間にハンドサインを送る。それを確認した二人はその意図を素早く理解し、駆け出す。
地面の上をまるで氷上を滑るように進む二人の生徒は獣の牙を削り出して作った槍をしっかりと握ると、挟撃する形でそれをルイシャ目掛けて突き出してくる。
「まずは一人!」
左右から同時に突き出される二本の槍。この息のあった連携攻撃こそが若き獣牙の最大の武器だった。
勘の鋭い魔獣でも反応が難しい連携攻撃だが、ルイシャの反射神経は獣のそれを上回る。
「よ……っと!」
身をよじってルイシャはその攻撃を躱す。そして突き出された二本の槍を左右の手で一本ずつ掴む。
焦った相手の生徒は急いで槍を自分の元へ引き戻そうとするが、ルイシャの人並外れた握力がそれを許さない。
「むんっ!」
そういきんだルイシャは手を上に持っていき、槍ごと生徒を持ち上げてしまう。
そして勢いよく腕を下におろし二人の生徒を地面に激突させる。
「「――――っ!?」」
声にならない声を上げ地面に横たわる若き獣牙の生徒。その細い体からは想像もつかないルイシャの馬鹿力に観客のみならず実況のペッツォも大口を開けて驚く。
「さて、これで一対一になったね」
そう言ってルイシャはクルイークの方を向き、拳を構える。
若き獣牙にとって絶望的な状況、しかしそれにも関わらずクルイークは至って落ち着いていた。
「私の仲間を二人倒して勝った気か? 言っておくが本当の狩りはこれからだ……!」
彼の体から殺気が溢れ出し闘技場を満たしていく。
クルイークから強者の気を感じ取ったルイシャはニイ、と笑みを浮かべる。
「いいね。面白い戦いになりそうだ」
「抜かせ、狩られる者の気持ちを味わわせてやる」