第21話 第三の眼
人目も憚らずいちゃいちゃとお祭りを楽しむルイシャとアイリス。
そんな二人の元に近づいてくる人物がいた。
「……お楽しみのところ申し訳ありません。少しお話ししてもよろしいでしょうか?」
「へ?」
声に反応しそちらに顔を向けてみると、そこには緑色のローブに身を包んだ男が三人立っていた。彼らは頭に緑色のとんがり帽子を目深に被っておりその表情は窺い知れない。
「あなた方は確か『第三の眼』の方……ですよね?」
「ほう、ご存知でしたか。話が早い」
ルイシャはその特徴的な緑色のローブに見覚えがあった。
キタリカ大陸南部に、本の都リブラに本拠地を置く大魔術組織。それが『第三の眼』だ。
『魔術の真髄を理解すること』を第一の目標に掲げる第三の眼には多数の有名な魔術師が在籍しており、その中には魔族までいると噂されている。
緑色のローブは第三の眼所属の魔術師である証。その中でも金の装飾が施されたそれは組織内でも上位の役職に就いている者のみが与えられる特別なローブだ。
「少しでも魔法に詳しければ第三の眼のことは知ってますよ。魔法使いであれば誰でも一度は第三の眼に入ることを夢見ますからね」
「そこまで言っていただけるとは光栄です」
そう言って男は帽子とローブの隙間から僅かに見える口元を綻ばせる。
彼の後ろに控える部下らしき男二人も満更ではない様子だ。三人とも第三の眼に所属していることを誇りに思っているのだろう。
「それで第三の眼の方が三人も何のようでしょうか?」
「ふふ、聡明な貴方であれば分かっているでしょう。私が来た理由は簡潔に申せばスカウトです。一回戦の貴方の戦いぶり、実に見事でした。うまく隠してはいましたがその体の奥底に眠る強大な魔力を我らの眼は見逃しませんでしたよ。その素晴らしい魔法の才能は我々の仲間になるに相応しいものであると。ぜひ我らの元でその才能を更に開花させ共に魔術の深淵に近づきましょう!」
興奮した様子の男は捲し立てるようにルイシャを勧誘してくる。
熱意たっぷりの彼とは反対にルイシャは冷ややかな表情を浮かべていた。
(才能……ね)
ここで才能じゃなく努力なのだと言っても何の意味もないということを理解しているルイシャは口を挟みこそしないが気持ちは冷めてしまう。
彼らの組織が才能至上主義であることは簡単に見て取れる。元々スカウトに応じる気はなかったが、想像してたよりも前時代的な組織なんだなとルイシャは残念に思った。
「もし我らの仲間になれば今いる学園などよりも手厚いサポートを約束しましょう。さあ」
そう言って差し伸べる手をルイシャは取らなかった。
「……? どうされましたか?」
「申し訳ありませんが僕は魔法学園を離れる気はありません。誘っていただいたのは光栄ですがスカウトするなら他を当たって下さい」
「な、ななな……!」
まさか断られると思っていなかった男は目に見えて狼狽する。
「あ、ありえない……我らの誘いを断るなどとは……」などとぶつぶつ呟く男。彼はしばらくその場に立ち尽くし独り言を呟くと、急にキッとルイシャを睨みつける。
「しょうがありません。あまりやりたくありませんでしたが強硬手段に出させて頂きます」
そう言って男は右手を前に突き出し魔法を発動させる。
突き出した手から緑色の光が放たれ、それを見たルイシャは動きがピタッと止まってしまう。
「洗脳魔法、脳髄支配……! 多少手荒ですがこれも魔法の深淵に至るため。少し脳を弄らせて貰いますよ……」
男はそう言って笑みを浮かべると、ルイシャの方へゆっくりと歩を進めるのだった。