第20話 かわいい
天下一学園祭の開催中、ここセントリアはお祭りムードに包まれる。
大陸の中心部に位置するこの国には様々な国から人が集まり、多種多様な食べ物や雑貨が売られている。
当然観光客もたくさん集まり街道は人でごった返している。
ルイシャとアイリスの二人はそんな街中を楽しげに歩いていた。
「あ! 見て! なんか美味しそうなものが売ってるよ!」
「ふふ、そうですね。食べてみますか」
「そうだね、買ってくるから待ってて!」
年相応にはしゃぎ回るルイシャをアイリスはうっとりとした表情で眺める。
二人きりでお出かけするということは今まで少なく、いつも他に誰かしらがいることがほとんどだった。
しかし今は違う。愛しの主人を一人占め出来るこの時間は彼女にとって何ものにも変え難い至福の一時だった。
「この時間が永遠に続きませんでしょうか……」
そう独り言をいいながら至福の時間を噛み締めていると、出店で食べ物を買ったルイシャが戻ってくる。鳥肉を一口大に切った物を串に刺して焼いた代物だ。焼鳥と呼ばれるその食べ物は食肉文化が進んでいるヴィヴラニア帝国ではメジャーな食べ物だ。
美味しそうな脂が滴るその焼き鳥を二本買ってきたルイシャはその内一本をアイリスに差し出す。
「はい! 買ってきたよ!」
「これは……もしかして私に、ですか?」
「へ? そうだけど」
まさか自分の分まで買ってきてくれると思っておらずアイリスは困惑する。
しかしそれくらい当然のことだと思っていたルイシャは困惑する彼女に困惑してしまう。
「わ、わざわざ申し訳ありません。今お金を……」
「そんなのいいから! ほらあっちで食べようよ!」
ぐいぐいと引っ張られるまま近くにあったベンチまで連れてこられたアイリスは、そこにルイシャと並んで座る。
突然の展開について行けず戸惑うアイリス。手に持たされた串をどうしようかと悩んでいると、ルイシャが期待した顔でこちらをじっと見つめていることに気づく。
(……ここで断るのは不敬ですね)
申し訳なさを押し殺し、アイリスはそれを食べることにする。
「では……いただきます」
外で買い食いをすること自体が初めてのアイリスは戸惑いながらも勢いよく焼き鳥にかぶりつく。その瞬間彼女の口の中に芳醇な肉汁と強めのスパイスの香りが広がる。
「――――おいしい」
思わずそう言葉を漏らすアイリス。
それを見たルイシャは満足そうに笑う。
「よかった。吸血鬼って良質な肉を好んで食べるって本で読んだからきっと気にいると思ったんだ。ほら遠慮してるのか普段アイリスってそういう物食べないでしょ? だからたまにはどうかなって」
少し気恥ずかしそうにそう言うルイシャを見てアイリスは自分の顔が熱くなるのを感じる。
まさか自分がここまで見られてるなんて、想われてるなんて想像もしなかった。
すっかり赤くなった頬を片手で隠し、潤んだ瞳をルイシャに向けるアイリス。頑張って隠そうとしてはいるが盛大に照れているのを全く隠せていなかった。
「……もしかして照れてる?」
「そんなことはありません」
あくまでクールを装いながらそう強がる彼女の姿にルイシャは胸がきゅんとしてしまう。
そしてそんな彼女の姿がもっと見てたいといじわるな感情も湧いてくる。
「そんなに顔を真っ赤にするなんてアイリスはかわいいね」
「か、かわ――――っ!? 冗談はやめてくださいルイシャ様、私がかわいいなどとそんなわけが……!」
「冗談じゃないよ。本当にかわいい」
そう言いながらルイシャはずいと顔を近づけアイリスの綺麗な金色の髪の毛に触れ、優しくそれをいじる。
「――――っ!!」
その行為でアイリスの羞恥心と嬉しさは限界を迎え、泣き出してしまう一歩手前まで瞳が潤んでしまう。
さすがにこれ以上やっては可哀想かなと察したルイシャは体を離し距離を取る。
「ごめんごめん。少しからかい過ぎたね」
「むぅ……いくらルイシャ様と言えどおふざけが過ぎます」
そう言って頬をぷくうと膨らます彼女を見て、ルイシャはやっぱり可愛いなと思うのだがそれを口には出さなかった。
「ごめんごめん、悪気はないから許してよ」
「いいえ許しません。罰として今晩はぶち犯させていただきます」
「えぇ……それは照れないんだ……?」
こうして二人は束の間の休息を楽しむのだった。