第19話 抜け駆け
控室でのミーティングを終えたシャロは一人控室と廊下を行ったり来たりしていた。
「もう。いったいルイったらどこいったの?」
ミーティングが終わってすぐルイシャに話しかけようとした彼女だったが、クラスメイトに話しかけられ僅かに目を離した間にルイシャは姿を消してしまったのだ。おまけにアイリスの姿も見えない。嫌な予感がしたシャロは必死に二人を探していた。
「もう建物の中にはいないのかしら……ん? あれは……」
ふと控室の窓から外を眺めると、外に置いてあるベンチにルイシャらしき人物が座っているのを見つける。距離が離れているので常人では判別がつかないだろうがシャロの目は誤魔化せなかった。短い黒髪に一見華奢ながらも鍛え抜かれた肉体、間違いなくルイシャだ。
「ようやく見つけた!」
彼を発見したシャロは窓枠に足をかけると、足に力を込めて思い切り跳ぶ。
軽やかな動作で空中を舞ったシャロは十メートルほどの距離を移動して地面に着地する。
「やっと見つけた。こんなとこで何してんの?」
「ア、アハハ、いい天気だねハニー……」
「ハニー? 何言ってんのよあんた」
見た目はいつものルイシャだ。しかし様子がおかしい。
おどおどしてるし視線も下を向き何やら後ろめたい様子だ。言動もいつもより何というか……チャラい。
一体どうしたのかしら。疑問に思ったシャロは少し考えある答えに行き着く。
「あんた……パルディオね? 私の前でルイに化けるなんて良い度胸してるじゃない?」
そう言ってシャロはルイシャに見える人物の襟を掴み持ち上げる。
するとルイシャだったその人物からボン! と煙が出て、その中から金髪の青年が姿を表す。
「ちょ、ちょっと待ってくれたまえミス・ユーデリア! 僕も好き好んでルイシャに化けていたわけじゃないんだ!」
ルイシャに化ていたのはクラスメイトの一人パルディオ・ミラージア。戦闘魔法を一切使えない代わりに世にも珍しい変身魔法を使うことのできる青年だ。
「じゃあなんでこんな所でルイシャに化てたのよ!? 返答次第ではぎったんぎったんにするからね?」
「ひいいぃぃぃっっ! 目が怖いっ! 命だけはお助けをっっ!」
両手を上げ大粒の涙を流すパルディオ。
ヘタレ気質な彼は観念しなぜこんなことをしたのかを話し始める。
「うぅっ。僕はただミス・フォンデルセンにお願いされただけなんだ」
「ミス・フォンデルセン? ……ああ、アイリスのことね」
「『ルイシャ様の姿になって適当にほっつき歩いて下さい』って言われたんだ。そしたら君が急に物凄い剣幕で詰め寄ってくるから驚いたよHAHAHA」
「……はあ。悪かったわ。どうやらあんたも巻き込まれただけみたいね。ところで何でアイリスの言うことを聞いたの? 別に仲良いわけじゃないでしょ」
「彼女は見返りに飴ちゃんをくれたんだ! しかも二個!」
心底嬉しそうにそう語る彼を見てシャロは頭を抱える。
「こんな奴に欺かれたのかと思うと頭が痛くなってくるわね……」
◇
一方その頃、ルイシャとアイリスは人で賑わう街の中を二人で歩いていた。
「ふふふ、そろそろシャロは私の仕掛けた罠に引っかかってる頃でしょうか」
「ん? 何か言った?」
「いえ。何も言ってないですよルイシャ様。ささデートの続きを楽しみましょう」
「う、うん」
デートと言葉に出され照れた様子を見せるルイシャ。
アイリスはそんな彼をいつものクールな表情で見ながらも心の中でガッツポーズをする。
(よしっ! ようやく二人きりになれました! このチャンス、絶対に活かしきってルイシャ様の心を堕として見せる……!!!!)
そう固く決意したアイリスはルイシャの手を取りデートを始めるのだった。