第18話 引き抜き
無事一回戦で勝利を収めたルイシャたちは魔法学園の選手控室に戻った。
控室の中には選手席から試合を見ていたクラスメイトが既に戻ってきており歓声を上げてルイシャたちを出迎えた。
「さっすがルイシャだぜ! この調子なら優勝も確実だな!」
「あのくらいのレベルなら僕たちでも楽勝だよね。こっちにはルイシャだけじゃなく勇者様もいるし負けっこないでしょ。国外旅行なんてしたことないから楽しみだよ」
「俺は行くなら太陽の国サントールだな、あそこは俺みたいに熱い男がたくさんいるらしいからな」
「はは、バーンみたいなのいっぱいいたら悪夢だよ」
「んだと!?」
早くも優勝した時のことを考え騒ぐバーンとその幼馴染メレル。もう一人の幼馴染ドカベは視線を上に向けながらぼーっとしている、どうやら彼も初めての優勝賞品である旅行の妄想をしているようだ。
彼らにつられ他のクラスメイトたちも優勝した時のことを考えテンションが上がる。
そんな浮かれた空気が部屋を満たす中、ユーリは突然手を思い切り叩き、パン! と大きな音を出してその空気を消し去る。
「浮かれるのは早いよみんな。試合は全五試合、まだまだ始まったばかりなんだからね」
ユーリの言葉に反省しクラスメイトたちは気を引き締める。そんな彼らを見てもう大丈夫だと判断したユーリは鋭かった目つきをいつもの温和な目に戻すとルイシャに近づく。
「勝ってくれてありがとうルイシャ。でも最後の技はやりすぎじゃないか? 観客席まで熱気がいってたぞ」
「ははは。でも超位魔法は使ってないからいいでしょ?」
「はあ……。力を出しすぎて苦労するのはお前なんだぞ? 今この会場には様々な国から人が集まっている。有望な子どもがいれば引き抜きを行おうとする学園や組織も少なくないだろう」
学園側としては引き抜かれるのは損でしかないが、生徒側としてはより良い学園に引き抜かれるのは悪い話ではない。
原則として大会中に引き抜く行為は禁止されているのだが、大会が終わればそのルールも適用されない。今のうちに生徒に引き抜きの約束をさせ後日正式に契約をするというのは珍しい話ではない。
「一応聞いておくが……引き抜かれない、よな?」
そう心配そうに尋ねてくるユーリ。平静を装うとしてはいるが不安が隠しきれていない。
そんな彼の様子にルイシャは「ぷっ」と笑ってしまう。
「うーん、どうだろうね。条件次第かなあ?」
「お、おい! 冗談だよな!?」
「さあどうだろうね……」
そう言ってにやりと意地の悪そうな笑みを浮かべるルイシャ。
二人のそんな微笑ましいやり取りにクラスメイトたちも声を出して笑う。
「……とにかく、だ。変な勧誘には気をつけた方がいい。さっきの試合で目立ったからルイシャに目をつけたところも多いだろう。声をかけられる可能性は高い」
「うん、気をつけるよ。ところで次の試合はどうするの? また僕が出ようか?」
「それには及ばないよ。二回戦の相手は今第二会場で試合をしている二校の内どちらかだけど、そのどちらもたいした実力はない。ルイシャの手を借りるまでもないさ」
「そうなんだ。でも万が一って事もあるし出てもいいよ。まだまだ元気だし」
そう言って「むん!」と力こぶを作るルイシャ。どうやら先程の試合の疲れは残っていないようだ。
しかしそれでもユーリはルイシャを参加させる気はなかった。
「君は僕たちの切り札だ。温存するのも作戦だ、今回は諦めてくれないか? それに一回くらいこの国の観光もしたいだろ? 大会が終わったら出店も閉まっちゃうだろうし遊ぶなら今のうちだぞ」
「むう、そこまで言うなら二回戦はみんなに任せるよ。セントリアを観光したい気持ちもあるしね」
「分かってくれたなら結構。それじゃ午後はデートを楽しんで来てくれたまえ」
そう言ってパチンと手慣れたウィンクをするユーリ。
デート。その単語を聞いた瞬間、ルイシャは自分の後ろから二つの殺気が放たれるのを感じる。もちろんその二つの殺気は二人の愛する女性から放たれている。後ろを振り向き「どっちと行く?」と聞く勇気はルイシャには勿論ない。
「ユーリ……なぜ、なぜ……!」
「ふふ、君のそんなに焦った顔をみれるのも珍しい。さっきの仕返しだ、楽しんできてくれよ?」
したり顔を浮かべるユーリ。
ルイシャは脂汗をたらしながらこの状況をどう切り抜けたものかと頭を抱えるのだった。