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第16話 第一試合

 セントリア第一闘技場。

 中央に直径五十メートルほどの正方形のリングが中央置かれたセントリア自慢のスタジアムだ。

 リングを囲むように観客席が作られており、そこには数千人の人々が押し寄せ戦いの時を今か今かと待ち侘びていた。


『さーて、いよいよ始まりました天下一学園祭! 実況兼審判は私「ペッツォ・ミクロフォーヌ」がお送り致します!』


 リング横に立つ、黒いサングラスとオールバックの黒髪が特徴的な男がそう喋ると観客たちは一斉に歓声を上げる。

 ペッツォと名乗ったその男はセントリアだけでなく各地の武闘大会によばれる有名な実況者だ。臨場感溢れる実況と豊富な知識で観客の心を掴んで離さない。

 彼の手には音量を増幅させる効果のある魔石が埋め込まれたマイクが握られており、爆音が止まないバトルでもその実況を確実に観客に伝えることができる。


『さて! ではさっそく選手紹介に参りたいと思います! 魔コーナーから現れたのは傭兵の街ガルドンにある超実践型戦闘訓練施設ギラの生徒たちだァ!!』


 ペッツォにそう紹介されギラの生徒たちは残忍な笑みを浮かべる。

 ギラの生徒は卒業後自動的に傭兵の組織に入れられることになっている。なのでその授業は実践形式のものがほとんどで、毎年命を落とすものが出るほどに過酷だ。ギラに入る生徒は孤児や奴隷落ちした子どもが大半であり、才能に恵まれた子こそ少ないがその過酷な生活の中で生き残るうち自然と戦闘能力がメキメキと上がっていき一人前の傭兵へと成り上がる者も多い。

 しかしその反面心はあまり成長することが出来ず素行の悪い生徒がほとんどだ。もっともこれは傭兵の街ガルドンに住う者全てに言える特徴なのだが。


『過酷な訓練をくぐり抜けた者のみが卒業できると言われるギラの生徒たち、その実力はいったいどれほどのものなのか!? 目が離せないぜっ!』


 一流の戦闘技術を身につけてるであろうギラの生徒たちがどのように戦うのか、観客たちの期待感が高まり会場は熱気で包まれる。

 そんな会場の雰囲気にギラの生徒たちも気分が高まってくる。


「大舞台で戦うのは初めてだが、注目されるのも意外と悪くねえな」

「ああ、しかも一回戦の相手は大したことない奴らだ。俺たちの力を見せつけて名前を売る絶好の機会だ」


 そう言って彼らは反対のリングに立つ対戦相手に背を向ける。

 彼らのリーダーらしき人物は背の低いひ弱そうな少年。日常的に過酷な特訓を受けている自分たちが負けるわけがない。彼らはそうたかを括っていた。


『さて! そんな有力株であるギラに挑むのは、由緒あるエクサドリア王国王都より参戦、フロイ魔法学園の生徒たちだァ!!』


 ペッツォの紹介を受け、ルイシャとヴォルフとアイリスがリングの上に乗る。

 観客はそんな彼らに拍手と歓声を上げるが、ギラの生徒に送るそれよりは明らかに少なかった。


「あんだ? 拍手が少ねえな。せっかく大将がこんな舞台に顔出してくれたってのに失礼過ぎやしねえか?」

「同感です。その御姿を見れただけでも光栄だというのに……不快です」


 顔を顰め不快感を露わにするヴォルフとアイリス。いまにも暴れ出しかねない二人、それを見かねたルイシャは二人の肩に手を乗せて宥める。


「まあまあ、去年魔法学園は初戦敗退しちゃったんだから期待されないのもしょうがないよ」


 ルイシャの言う通り去年の天下一学園祭で魔法学園は大敗を喫している。それを知っている観客たち、ならびに他校の生徒たちは魔法学園など全く眼中になかった。


「だからこそZ(この)クラスを作った……!」


 応援席でルイシャたちの様子を見るユーリはポツリと呟く。

 大陸中から観客の集まるこの大会は、魔法学園の持つ力を見せつける大きなチャンスだ。この大会に大きな想いを賭けているユーリは一回戦が始める直前ルイシャに頼み込んだ。


『ルイシャ、遠慮はいらない。思い切りやってくれ!』


 彼の想いを受け取ったルイシャは親指を立ててそれに応え、このフィールドにやってきた。


「ユーリの期待に応えるためにも頑張んなくちゃね」


 そう言って相手を観察すると、ギラの生徒たちは相変わらず舐めきった態度でルイシャたちを見ていた。とてもこれから真剣勝負をする様には見えない。


 実況だけでなく審判の役割も兼任するペッツォは、両校の出場メンバー三名全員がリングに上がったのを確認すると試合開始の宣言を始める。


『さあッ! いよいよ天下一学園祭一回戦を始めるぜ! バトルメンバーである三人全員が戦闘不能、降参、リングアウトのいずれかになったら決着だァ! それじゃあお互いの誇りをかけて、レディ…………ファイッッッ!!』


 ペッツォの号令が会場に鳴り響いた瞬間、ギラの生徒の一人がルイシャたちめがけて走り出す。手には鈍く光るショートソード。実用性重視で飾り気の一切ないそれはよく手入れされておりヒト族の柔肌など容易く切り裂いてしまう。


「僕がやる。二人は手を出さないでね」


 ルイシャは前に出たくてうずうずしてる二人に釘を刺すと、一歩前に出る。

 腕をだらんと下に垂らし隙だらけの彼めがけギラの生徒が襲いかかる。


「くらいなッ!」


 学生にしては熟練された隙のない一撃。横なぎに振われた剣はルイシャの肩に当たる……かに思われたが、その一撃が当たるよりも早くルイシャは行動していた。


「せいっ」


 パシリ、と向かってくる生徒の頬をビンタする。側から見たらたいして痛そうに見えない攻撃だがルイシャが放てばビンタも恐ろしい必殺技に変貌する。

 その一撃をくらった生徒は思い切り吹っ飛び、綺麗な弧を描いてリング外に落下する。


「あ、あがが……っ」


 吹っ飛ばされた生徒は地面に伏せたままパクパクと口を動かす。過酷な訓練をくぐり抜けた彼だがこれほどの衝撃を受けたことはなく頭が真っ白になってしまう。


『リ、リングアウト……!』


 驚きの光景に戸惑いながらもペッツォはリングアウトを宣言する。呆気に取られ静寂に包まていた会場だが、その宣言を受け徐々に歓声が沸き起こり始める。


『す、すげえ……なんだあの生徒!』

『おいおい魔法学園ってたいしたことないんじゃなかったのか!?』

『あの男の子よく見たら可愛くない?』

『こりゃ番狂わせだ、面白くなってきたぞ!』


 盛り上がる会場を見てユーリは手応えを感じる。この調子で頑張れば魔法学園の評判は上がっていくはずだと。


「見せてやれルイシャ、私たちのクラスの力を……!」


 少年少女たちの熱い戦いが、幕を開ける。


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