第15話 開会
翌日。
ルイシャ達はセントリアの中心部に建てられている立派なスタジアムに来ていた。
正方形の競技場の上には大陸各地に存在する三十二もの学園から集められた優秀な生徒達がずらりと並んでいた。
そんな彼らの勇姿を一目見ようと観客席にはギチギチに人が詰まっている。人と人が真剣勝負するのを見られる機会は滅多にないので天下一学園祭は退屈な日々を送る人々にとってこれ以上ない娯楽なのだ。
「うひゃあ凄いね。ここにいる人みんな学生なんだ」
開会の挨拶が行われる中、ルイシャは周りに立つ生徒をきょろきょろと観察していた。
王国から滅多に出ないルイシャは外国人に会うことは少ない。好奇心旺盛な彼は肌の色が違ったり顔の特徴が違う人がたくさんいてテンションが上がってしまう。
「こら、あまりジロジロ見るもんじゃないぞ」
そう行動が目に余ったユーリはそう釘を刺すが、ルイシャは納得がいっていない様子だ。
「えー、だって気になるんだもん。あ、じゃあ他の学園のこと教えてよ」
「はあ、しょうがないな全く」
やれやれといった感じで応じたユーリは、三十二校の中でも実力校と呼ばれる学園のみをかいつまんで説明する。
「あそこにいる緑色のローブととんがり帽を身につけたいかにも魔法使いって感じの見た目の生徒たちがいるだろ? あれは本の都リブラにある大魔術学園『ライブラ』の生徒だ。キタリカ大陸でもトップクラスの力を持つ魔術研究組織『第三の眼』お抱えの学園だからその魔法技術はこの大会に参加している学園の中でもトップクラスだろう」
「おお、かっこいい! 手合わせしたいなあ!」
「あっちにいる肌の浅黒くて露出の多い服を着た生徒たちは南方の国『セントール』にある『サンタナ学園』。踊りと音楽と魔法を融合した独特の戦闘スタイル『テンラム』を得意としている。前回大会では三位と健闘したようだ」
「あれがセントール人なんだ。王国では一回も見かけたことないや」
「そうだろうね。王国とセントールはかなり距離が離れている。同じ大陸に住む者ではあるけどわざわざこちらまで来るセントール人はいないだろう。セントールは豊富な資源がある国だから外国に行く意味も薄いだろうしね」
ユーリはその後も要注意な学園をルイシャに説明する。
血生臭い噂の絶えない傭兵育成教育組織『ギラ』や創世教総本山、法王国アルテミシアにある聖クリエア学園など一癖も二癖もある学園がこの大会に参加していた。
「そして一番注意しなければいけないのは現在二連覇中の『帝国学園』だ。剣王クロムが直接指導を行ってるだけあってその戦闘技能はかなり高い。私たちが順当に勝ち上がっていけば戦うのは避けられないだろうね」
「帝国学園、か」
ルイシャは軍服に身を包み綺麗に列を組む生徒達に目を向ける。彼らの一挙手一投足には無駄がなく、高レベルの訓練を受けていることが容易に見てとれた。
そんな彼らと大舞台で戦うことができる。ルイシャは胸が高鳴るのを抑えきれなかった。
「おいおい顔がニヤけているのを隠しきれてないぞルイシャ。あまり殺気を振りまかないでくれよ胃が痛むから……」
「殺気だなんて大袈裟だなあ。ま、ワクワクしてるのは否定しないけどね」
「頼りにしてるよルイシャ、君に声をかけたこと後悔させないでくれよ?」
そう軽口を叩いていると、空中に全長二十メートルはある巨大な映像が映しだされる。その映像は丸い水晶の形をした魔道具から放たれている。映像を映し出せる水晶自体は珍しいものではないのだがこれだけ大きな映像を映し出せるものはそう存在しない。
そんな貴重な魔道具を使って映し出されたのはトーナメント表だ。ランダムに選ばれた三十二校の組み合わせが発表される。
「一回戦の相手は……傭兵育成教育組織『ギラ』か。ユーリも話してた要注意のとこだね」
「ああ、まずは一回戦。お前の力をここにいる観客達に見せてやってくれ」
「うん、任せて」
二人はそう言って頷き合うと、拳をぶつけ合うのだった。