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第14話 大会前夜

 ヴィヴラニア帝国の皇帝と思わぬ接触をしたルイシャたちはその後、無事セントリアの代表に出会うことができた。今度は何のトラブルもなく謁見を終えた彼らは友人たちが待つ宿舎に行くのだった。


「みんな集まったな。それじゃ明日から始まる天下一学園祭の説明と作戦会議を始めるよ」


 時刻は夜。宿舎のロビーに生徒を全員集めたユーリはそう切り出した。


「この大会は大陸中に存在する様々な学園の中から選りすぐりの三十二校が参加している。この大会はトーナメント制だから五回連続で勝てれば優勝出来る」


 ユーリの言葉にクラスメイトたちはうんうんと頷く。この学園祭は有名であり、だいたいの内容はほとんどの者が知っていた。しかし参加するのはもちろん、実際に会場に入り観戦した者はいなかった。

 この学園祭には一般人の観戦席もあるのだが、毎年そのチケットは一瞬で売り切れてしまう。そのせいで転売も横行し裕福でない一般人ではなかなか観戦することはできない。

 最近は早い者勝ちから抽選制度に変わったが、それでも転売の対策は完全にできておらず運営も手を焼いているらしい。


「試合方式は毎年恒例の三対三のチーム戦、先に三人全員が戦闘不能かスタジアム場外になったチームが負ける。誰か一人がギブアップしても負けになる。武器や魔法の使用に制限はないが相手を殺すような攻撃は禁止されてる、そんなことをする人はここにはいないと思うけど気をつけて欲しい」


 ユーリは細かい試合のルールを説明する。この大会はトーナメント方式なので一回の負けで全てが終わってしまう。

 ルール違反で負けなんてことにならないよう彼は仲間たちに詳しく説明をした。


「……伝えておくことはこれくらいかな。ここからは僕の個人的なお願いだ」


 ユーリはそういうと真剣な表情に変わる。あまりクラスメイトの前ではこのような表情を見せることはないのでクラスメイトたちもつられて真面目な雰囲気になる。


「この大会はお祭り的な側面も大きいが、自国の戦力を他国に見せつける場でもある。みんなも知っている通り僕たちの王国は近年良い成績を出せていない。その一方帝国は優勝常連国になりつつあってその差は広がるばかりだった」


 そう言って彼は悔しげな表情を浮かべる。

 前国王ははっきり言って無能な国王だった。そのせいで国力は落ち、財政は傾き戦力も周辺国よりも低くなってしまった。

 現国王フロイのおかげでその窮地を脱することはできたのだが、前政権の負の遺産は大きくいまだに帝国との差は開いたままなのだ。


「僕と父上はその差を埋める策の一つとしてこの『Zクラス』を作った。利用するようで申し訳ないが、この大会で優勝すれば王国が力を取り戻す大きな切っ掛けになるだろう。どうかみんなの力を貸して欲しい」


 そう言って彼は頭を下げる。

 王子が頭を下げる意味は大きい。それほどまでにこの大会に賭ける彼の思いは大きいのだ。


 しかしそんな事をしないでもクラスメイト達の答えは決まっていた。


「よせよユーリ、友達ダチの頼みを断る奴なんざここにゃいねえよ」


 バーンがそう言うと他のクラスメイト達も笑顔で頷く。まだ三ヶ月しか共に過ごしてない彼らだが、その絆は固く強くなっていた。


「みんなこのクラスが出来て救われてんだ、むしろこの大会はお前に恩を返すチャンスってもんだぜ。ま、俺は暴れられるなら何でもいいけどな!」


「そっちが本音かよ、締まらねえ奴だな」


「うっせえヴォルフもそうだろうが!」


「俺をてめえみてえな喧嘩バカと一緒にすんな!」


 いつものようにぎゃいぎゃいと騒ぐ二人とそれをやめさせようとするクラスメイトたちを見てユーリは思わず笑ってしまう。そしてそれと同時に目頭が熱くなるのを感じる。

 最初は政治利用が主な目的だったこのクラスも、いつしか彼にとってかけがえのない大切な物に代わっていた。本心ではこの大会に大切な友人達を参加させたくは無かった。しかし彼らはむしろ自分に恩を返すため快く参加を引き受けてくれたのだ。


 これで胸が熱くならないはずが、ない。


 ユーリは心の中で仲間達に礼を言うと、いまだ口論を続ける二人を宥め落ち着かせてから次の話題に移る。


「さて、それじゃ最後に僕たちのリーダーを決めようと思う。特にリーダーだから何かしなくちゃいけないという規則はないんだけど一応決めとかなくちゃいけないんだ」


 そう言ってユーリは一人の人物に目を向ける。


「引き受けてくれるかい、ルイシャ」


 突然名指しされビクッとするルイシャ。

「ええ? 僕がやるの!?」と以前の彼ならば答えていただろう。しかし短い時間ながらも幾多の戦いを乗り越えた彼は、人の期待に応える器を得るまでに成長していた


「うん、やるよ。任せて」


 その言葉にユーリだけでなく他のクラスメイトたちも笑みを浮かべるのだった。

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