第10話 永世中立国セントリア
永世中立国セントリア。天下一学園祭の開催されるこの国の成り立ちは他の国とは根本から異なる。
この国が建国されたのは今からおよそ二百五十年前。今よりもっと王国と帝国の仲が悪く、大陸各地で戦が勃発していた時代の最中だ。
長い間、それこそ資料も紛失しいつから始まったか分からないほど王国と帝国の小競り合いは続いていたのだが、この時期の二国間の仲は過去最悪と言っていいほど悪化しており毎日どこかで紛争が起きていた。この時お互いの戦力は拮抗しており戦争は泥沼化、お互いの国は徐々に疲弊していき次第に関係ない他国を襲い物資を補給する兵士まで出てきてしまった。
このままでは大陸のヒト族は力を失い魔族に侵略される恐れがある。そう判断した大陸各地の大魔法使い『賢者』たちはこの大陸の争いを鎮めることに尽力し、見事休戦させることに成功したのだ。
そして今回の悲劇を忘れないよう、そして二度と繰り返さないように、大陸中央にこの国を建国したのだ。
王国と帝国、その他の国はセントリアを攻撃しない条約を結んでおり、これを破ると賢者が仕掛けた災いが国を襲うことになっている。そのため現在も派手な戦は起きず小さな小競り合いで済んでいる。
この平和の象徴とも呼べる国で武闘大会を開くのは、お互いの国のガス抜きという側面もあるのだ。
「ふう、空もいいけどやっぱり地面は落ち着くね」
魔空挺から降り、地上に降り立ったルイシャは二日ぶりの地面を踏み締めホッとする。
クラスメイトたちも久々の地面に感動し跳んだり跳ねたりを繰り返している。
「みんなは宿舎に行ってくれ、僕はやらなきゃいけないことがあるからここで別れるよ」
そう言ってユーリは従者のイブキと共にルイシャたちと別れようとする。
着いて早々なにをするんだろう? 疑問に思ったルイシャは彼に尋ねる。
「やること?」
「ああ、僕は今回の学園祭の代表責任者なんだ。この行事は国を挙げての大規模行事、いつもだったら父上かその腹心が同行して他国の偉い人と挨拶したりするんだけど、今回は僕がその任を務めるんだ」
「ほへえ、大変そうだね……」
どのようなことをするか具体的には分からないルイシャだが、それがかなりの責任を伴う役目だということは彼にも想像がついた。ユーリは王国の代表として振る舞い、他国の代表と接さなければいけないのだ。相当な重圧がかかることは間違いないだろう。
「まずはこの国の代表に会わなければならない。待たせたら早速悪い印象を与えちゃうからね、早く行かなきゃ」
そう語るユーリはいつもの彼と違い焦ってるように感じた。いくらイブキが付いているとは言えそのプレッシャーは拭い切れるものではないだろう。
だったら今ルイシャがやるべきことはただ一つ、彼は迷いなき目でユーリに提案する。
「僕も一緒に行く。護衛は多い方がいいでしょ?」
「僕も行くって……そんなことさせる訳がないだろ? 君は王国関係者じゃないんだから」
「確かにその通りだけど僕は無理矢理にでもついていくからね。やめさせたいなら力づくでどうぞ」
「お前って奴は変なところで頑固だよな……」
ユーリはため息を一つつくと、イブキの方に目を向ける。本来であればルイシャを止めるのはイブキの役目なのだが、両手を兜の後ろに組み呑気に口笛を吹いている。どうやら加勢は期待できないようだ。
「はあ、分かった分かった僕が折れるよ。それじゃ護衛を頼めるかな新人従者さん」
「お任せください王子。この命に変えてもお守りしますよ」
ルイシャはまるで騎士役の劇役者のように大仰に礼をして、彼の後をついていくのだった。