第9話 大陸のへそ
飛龍討伐を見た日の夕方、ルイシャたちは魔空挺の甲板に集まっていた。
みんな柵から身を乗り出すようにして地上を見下ろしキョロキョロしている。どうやらなにかを探しているようだ。
「お! あそこ見てみろよ!」
唐突にバーンが大声を上げ一点を指差す。クラスメイトたちが一斉に指差す方向に目を向けると、そこにはこの魔空挺よりもずっと大きな『穴』が地上に空いていた。
直径は約二キロメートル。穴の中は闇で覆われており、太陽の光でもとても奥底まで照らすことはできない。
『大陸のへそ』と呼ばれることもあるその巨大な穴の名前は『不浄洞穴』、その名前の通り不浄なモノが溜まった悍ましい穴だ。
穴の近くは腐敗臭が凄くとても近づけないが、空からならばその臭いは流石に届かない。ルイシャたちは安全な位置でじっくりとその大穴を観察することができた。
「いい機会だからじっくり見とけよー。『不浄洞穴』は一般人ではそうそうお目にかかれない『大陸遺産』の一つ、それを見れるなんて貴重な経験だからな」
そう生徒に言い聞かすのはZクラス担任のレーガス。生徒たちの保護者として彼も学園祭に駆り出されたのだ。
彼はZクラスの担任になる前、地理の教師をしてたので国や土地に凄い詳しい。生徒の引率を務めるには最適といえよう。
「あの大穴は人類が文字を使う頃には空いていたらしい。つまり千年、いやそれ以上前から存在していることになる。元々この穴はただの空洞だったと言われていて今のように強烈な臭いを発するようになったのはとある宗教団体が自分たちが不浄と定めたモノをこの穴に投棄していったからだという説がある。しかしこの説には矛盾もありうんぬんかんぬん……」
「出た、先生の地理オタク。誰が聞くんだこれ」
地理うんちくを話し気持ちよくなってしまっているレーガスを見て、バーンは呆れたように呟く。
現にほとんどの生徒は彼の話を聞かず、地上に空いた穴を興味津々に見ている。
そんな中勉強オタクであるベン・ガルダリルとルイシャだけはレーガスの話を真剣に聞いていた。
「ふむ、やはり実地で受ける授業は最高だなルイシャ!」
「そうだね、脳に染み渡るよ!」
心底楽しそうに授業を受ける二人を見て流石のバーンもドン引きする。
そんな風に各々楽しんでいると、下を見ていたヴォルフが大声をあげる。
「お! とうとう見えてきたぜ!」
不浄洞穴の更に先、そこに現れたのは王都に匹敵する規模の巨大な都市だった。
ルイシャはその都市を見て声を漏らす。
「あれが『永世中立国セントリア』……! 僕たちが行くところなんだね!」
石造りの家が主流の王都と異なり、セントリアの建物は金属製のものがほとんどだ。
そして何より特徴的なのがその建物たちの『高さ』。十階建て以上の建物がいくつもそびえ立つその光景はこの大陸ではそう見られない。
近未来都市のような見た目のこの都市は、若者からの人気が非常に高い。
「いったいどんな事が起きるんだろう……!」
魔空挺が高度を下げ都市に降り立つのを見ながら、ルイシャはまだ見ぬ冒険に胸をときめかすのだった。
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