第7話 狩り
地面に向かってい真っ逆さまに落ちていく五人の生徒たち。
突然のことに驚いたルイシャとヴォルフは急いで魔空挺の柵から身を乗り出し五人を覗き込む。
彼らは空中で姿勢を正し飛竜の方を向くと小さく呟く。
「翼靴、オン」
そう口にした瞬間彼らの体はピタリと空中で止まり、まるで見えない地面に立っているかのように直立する。
「な、なんだありゃ!?」
「飛行魔法……とは少し違うみたいだね。飛行魔法じゃあんな風にその場に静止するのは難しい。いったいどうやってるんだろ、面白いなあ」
未知の技術を目にしたルイシャは興味津々に彼らを見つめる。
一方若き獣牙の生徒たちは落ち着いた様子だ。リーダーであるクルイークが双眼鏡を取り出し飛竜を目視している。
「目標確認、中型飛竜種。体色は茶、討伐難度Cの『ブラウンワイバーン』と推定。五人での任務達成確率を八割以上と推定。予定通り狩りを開始する」
「「「「了解」」」」
そう短くやりとりをした彼らは急に猛スピードで空を飛び始め、飛龍に迫る。
彼らのリーダー、クルイークはものすごい速さで飛翔しながらハンドサインで仲間に指示を送る。彼の指示通り仲間たちは的確に動き、二手に分かれ挟撃する形で飛龍に接近する。そしてクルイークだけは単身で真っ直ぐに飛龍に向かって飛ぶ。
そんな彼らの動きを見て思わずヴォルフは声を漏らす。
「すげえ統率の取れた動きだな……」
「そうだね、生半可な特訓じゃあの動きは出来ない。強敵になりそうだね」
真っ直ぐに近づくクルイーク。その存在に飛龍も気づき『ゴギャァ!』と威嚇をする。回り込んで接近する彼の仲間にはまだ気づいていない様子だ。
飛竜のその様子を見てクルイークは笑みを浮かべながら槍を構える。
「一番槍、いただきっ!!」
そう言って彼は思い切り槍を投げる。
するとその槍はあり得ないほどの速さで放たれ、飛竜の背中に深々と突き刺さる。
『ゴギュアッ!?』
あまりの速さに飛竜はなにが起きたかすら分からず悲鳴を上げる。槍はかなり深く刺さっているようで背中からはドクドクと赤い血液が流れ出ている。
その痛みに飛竜は怒り、口から熱気を漏らし始める。これは竜の仲間が持つ器官『火炎袋』に炎を溜め込んでいることを意味する。いくらクルイークが丈夫な鎧に身を包んでいたとしても飛竜種の奥義『火炎吐息』を食らえばひとたまりもないだろう。
『グルル……ッ』
「どうした、こいよ」
しかし彼は逃げるどころか飛竜を挑発した。いくら知能の高くない飛竜といえどその挑発を理解し、熱を蓄えた口を大きく開きながら彼に突っ込んでいく。
絶体絶命。しかしこれこそが彼の待ち望んだ状況だった。
「今だ!」
彼の合図と共に、飛竜に四本の槍が突き刺さる。クルイークが注意を惹きつけている間に接近した仲間たちが一斉に槍を投擲したのだ。
突然の攻撃に飛竜は混乱しブレスを中断する。
そして槍を放った者たちはぐるぐると飛竜の周りを回り始める。
撹乱してるにしては動きが派手すぎると思ったルイシャは目を凝らしその様子をよく見てみる。
「なるほど、糸か……」
彼らの放った槍には鋼の糸が巻き付けられており、その糸は手元まで伸びていた。そしてその糸を持ったまま周りを回れば当然糸は飛竜に巻き付いてしまう。
飛竜は当然暴れてその糸から抜け出そうとするが、暴れれば暴れるほどその糸は絡まり、更に傷口から血が漏れて体力を奪っていく。
「狩り……完了」
やがて抵抗する力を失った飛竜は力なくうなだれ、彼らの糸に吊るされるのだった。