第6話 若き牙たち
魔空艇生活二日目。
よく晴れた朝の空の中を悠然と飛行する魔空艇の様子をルイシャとヴォルフは甲板から見ていた。
「今日もいい天気で良かったな大将……ん? どうかしましたか、腰なんかおさえて」
「はは、ちょっとね……」
痛そうに腰を押さえるルイシャを心配するヴォルフ。
そのワケを話すのは憚られるのでルイシャは笑って誤魔化す。
「そんなことより外を見ようよ、魔空艇なんてそう何回も乗れるもんじゃないし!」
そう言って一面に広がる空に目を移すルイシャ、すると雲に紛れてなにやら黒い点が空に浮かんでいるのを見つける。
「……なんだろあれ」
気になったルイシャは眼に気功を集中させ、気功術『鷹視』を使う。
人間の能力値を底上げさせる気功術は感覚器官にもその効果を及ぼす。視力も勿論例外ではなく、鷹視を発動させたルイシャは百メートル離れたところにいる小さな虫さえも視認できてしまう。
その強化された視力で黒い点をようく見たルイシャは、それの正体を看破する。
「あれは……飛竜だね、それほど大きめの個体じゃないけど気をつけたほうがいいね」
飛竜とはその名の通り翼を持ち空を飛ぶ竜の一種だ。
竜王リオの種族『竜族』と同じ祖先を持つ飛竜種だがその力は竜族に大きく劣る。その魔力と筋力はどちらも竜族には遠く及ばず、知能も低く人型にもなれない。
しかしそれは最強種族竜族に比べたらの話であり、普通のモンスターと比べたらその力は十分に脅威と言えるだろう。
「魔空艇をモンスターかなにかと勘違いしてるんだろうね。飛竜種は縄張り意識が強いから攻撃してくるかもしれない」
「それってマズくねえですか!? 飛竜種っていやあ強力な火炎吐息が得意なはず、そんなもん食らったら墜落しちまいますぜ」
「うん、近づく前に片付けちゃおうか」
そう言ってルイシャは魔空艇から飛行魔法を使って空に飛び出そうとする。
しかしそんな彼を何者かが静止する。
「待ってもらおうか、それは私たちの仕事だ」
そう言って現れたのは特徴的な装備に身を包んだ五人の青年だった。
彼らはモンスターの鱗や皮をふんだんに用いた鎧や武器を身に纏っていた。一般的に武器防具は鉱石を用いるのが基本的であり、モンスターの素材を使うのは珍しい。
これは素材としての強度というよりも製作難度の問題であり、モンスターの素材を加工するのが鉱石よりもずっと難しいからである。なので必然と彼らの武具は作成難度が高いものであり値段もそれなりにするものだ。
「あなたたちは?」
「私たちは商国の学園若き獣牙の代表メンバーです。魔空艇の警備も担当してます」
そう言った彼は獣の牙を削って作られた槍を持ち、飛竜の方に目を向ける。
「あの飛竜は我々で処理します、あなた方は部屋に戻って静かにしていて下さい」
高圧的な態度でそう言ってくる彼らにヴォルフは少しムッとする。言ってることは立派だが、こちらを格下だと見下しているような態度だ。
一方ルイシャはそんなこと一切気にせず別のことに興味を奪われていた。
「あの、どうして飛竜が飛んでいることに気づいたんですか? 肉眼じゃ分からないですよね!」
「魔空艇には強力なレーダーが搭載されている。モンスターの接近を感知するのはもちろん、その対象がどんな種類なのかすら特定することが出来るのだ」
「へぇー! 商国はそんなものまで開発してるんですね!」
「そうだ、凄いだろう」
ルイシャに乗せられ得意げに機密事項を話してしまう若き獣牙の生徒。
彼の同級生たちはこのままだとドンドン秘密を話してしまうと焦り、彼の肩を叩く。
「リーダー、そろそろ……」
「ん? ああ、早く取り掛からないとな」
リーダーと呼ばれた生徒は黒いガラスが張られたゴーグルを身につけ、ルイシャを指差す。
「お前、なかなか見所があるな、名前は?」
「僕は魔法学園の生徒、ルイシャです。あなたは?」
「私は若き獣牙二年のクルイーク。ここで会えたのも何かの縁だ、私たちの狩りを見ているといい」
クルイークと名乗った青年はそう言って笑うと、大空に向かって駆け出し魔空艇から飛び降りるのだった。