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第5話 言えなかった気持ち

 魔空挺の甲板についたルイシャとシャロ。

 空は快晴、心地よい風が吹き二人の髪を優しく揺らす。絶好の飛行日和だ。


「中にいたらよく分からないけど、本当に空を飛んでいるのよね。現実味がないわ」


 シャロは手すりを掴みながら下を覗き込む。

 地面は遥か下に存在し、落ちたらとても助からない高さだ。


「本来ならこの高さは凄い寒いはずなんだけど、魔空挺の機能で暖かくなってるみたいだね。凄いなあ、どんな仕組みなのか知りたいよ」


 そう言ってルイシャはシャロの隣に来て手すりに寄りかかる。


「「…………」」


 不意に訪れる沈黙。

 今この場には二人しかいない。他校の生徒はもちろん、クラスメイトも、いつもいるヴォルフとアイリスもいない。

 出会った頃は二人きりの時も結構あったのだが、最近は賑やかになり二人きりの時間というのは少ない。意図せずこんな状況になってしまい少し気まずくなってしまったのだ。


「あー……ええと……二人きりの時ってなに話してたっけ?」


「ぷっ、なにあたふたしてんのよ。変に気を使わなくてもいいのよ」


 そう言って優しく笑うシャロを見て、ルイシャの心に温かいものが溢れる。


(やっぱり……好き……なんだな……)


 ルイシャは最初勇者の情報を聞き出すためにシャロに近づいた。

 そしてその場の流れで彼女と関係を持ち、今に至る。最初は「可愛い女の子だな」ぐらいにしか思っていなかったが、彼女とともに過ごす内ルイシャが彼女に寄せる気持ちはどんどん強く、深く、確固としたものになっていった。


 今ははっきりと彼女のことを好きだと言える。

 しかしだからこそ……彼女を利用しようとして近づいた自分が許せなかった。

 彼女の思いの強さを知っているからこそ、こんなモヤモヤした気持ちを抱えたままではいらなれなかった。


「シャロ、二人きりなんて滅多にないから話しておきたいことがあるんだ」


 真剣な面持ちでそう切り出すルイシャを見て、シャロも真剣な顔になる。


「なに? 話して」


「うん……」


 ルイシャは思いの丈を正直に話した。

 シャロに対して負い目を持っていること、それを申し訳ないと思っていること、そして今はちゃんと彼女を好きだと思っていること。

 それらのことをはぐらかさずに彼女に打ち明けた。


「幻滅したよね。ごめん……」


 申し訳なさそうにルイシャは謝る。

 嫌われてもしょうがないことを言った、もう元通りの関係に戻るのは不可能かもしれない。

 最悪の結末を想像するルイシャだったが彼女の反応は意外なものだった。


「……ぷっ! ふふ、あんたそんなこと気にしてたの?」


 なんとシャロはそう言っておかしそうに笑い始めた。

 想定外の反応にルイシャは戸惑う。


「へ? お、怒ってないの?」


「私を甘く見てもらっちゃ困るわよルイ、あんたがそう思ってたことなんて私は最初から気づいてたんだから」


 そう言ってシャロはルイシャのすぐそばにずいっと近づく。

 真正面から向き合う形の二人の隙間はわずか数センチ。吐いた息が相手の顔にかかるほどの近さだ。

 シャロはその距離感でルイシャの目をまっすぐに見つめながら話す。


「いい? 勘違いしてるようだから教えてあげる」

「ふぁ、ふぁい」


 超至近距離で、しかも手を握りながら話しかけてくる彼女にルイシャは圧倒され情けなく返事をする。

 手からは彼女の体温が、鼻には彼女の甘い良い匂いが、目には可愛らしい顔が視界いっぱいに写り、ルイシャは心臓がバクバク鳴るのが聞こえてしまうほどドキドキする。


「私があんたを好きになったのは、あんたが私を好きだからじゃないわ。だから私を利用しようとして近づいてきたことなんてどーでもいいの」


「でも……」


「でもじゃないのっ。いい? これは私があんたを落とす戦いだったの、だからルイが私のことを好きになっちゃったのなら私の勝ち。喜ぶことがあっても怒るなんてことはないわ」


 そう言い切ってしまう彼女を見て、ルイシャは「敵わないな」と小さく呟く。

 勝手に彼女を傷つけていると思ってたが、どうやら彼女の度量の大きさを見誤っていたようだ。


「まあ……わたしのことをそこまで心配してくれてたのは嬉しいわ、ありがと」


 シャロは握っていたルイシャの手を離し、その手をルイシャの背中に回す。


「だからこれはお礼、あとマーキングね」


 そう言ってシャロは背中に回した手に力を込めてルイシャを引き寄せ、優しく口づけをする。


「――――んっ」


 永遠にも感じられる、長いキスを交わした二人は唇を離し照れ臭そうに顔を赤くする。


「なに照れてんのよ」


「シャロだって顔赤いよ」


「うっさい赤くない」


 シャロは言い合いながら背に回した手を下の方に持っていき、今度はルイシャの腰に手を回し自分の方に引き寄せる。

 すると二人の下腹部がぴったりとくっつき、そこからじんわりと熱が伝わってくる。そしてそのままシャロはルイシャの顔を挑発的な顔で覗き込む。


「なに興奮してんのよ、えっち」


「だ、だってシャロがこんなことするから……」


「ふん今まで私だけドキドキしてたお返しよ、これからは私のターンだから覚悟しなさい!」


 シャロはそう宣言するとルイシャの腕に自分の腕を組ませる。そしてぐいぐいと引っ張って船内の自室へと向かう。


「悪いと思ってるなら今日の夜は私の言うことを聞いてもらうわ、たっぷりと私の気持ちを教えてあげるから覚悟しなさい!」


 そう言って彼女は、満面の笑みを大切な人に向けるのだった。

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― 新着の感想 ―
「ずっと俺のターン!!」が頭から離れてくれない!助けて!!
[良い点] 今夜はお楽しみですね?
[一言] こういうのをもっと増やしてくれてもいいんですよ?(。´´ิ∀ ´ิ)
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