第4話 上級生たち
船内でご飯を食べ終えたルイシャとシャロは「せっかくだから風に当たろう」と甲板に出ることにする。その道中長い廊下を歩いていると顔見知りの三人が立ち話をしている場面に出くわす。
「あ、こんなところにいたんですね先輩たち」
ルイシャがそう声をかけると三人の先輩たちは手を上げてそれに応える。
「やあルイシャくん、楽しんでるかい? それにしてもこの魔空挺ってものはスゴイね、空を飛んでいるのに全然揺れを感じない。技術の進歩というのは素晴らしいものだね」
そう上機嫌に話すのは魔法学園生徒会長レグルスだ。彼は魔空挺に興味津々のようでキラキラした目で辺りを見渡している。
「魔空挺に乗れる機会なんか滅多にないからね、本当に貴重な経験だよ。代表に選んでくれて感謝するよルイシャ君」
そうルイシャに礼を言ったのは三年Aクラスのリチャードだ。彼は少し前にルイシャに決闘を挑み、敗北した生徒だ。
ルイシャは彼に勝ちはしたものの、学生の中では抜きん出ていた彼の実力を評価して今回の学園祭の代表メンバーの一人にに選んだのだ。
生徒会長レグルスもルイシャの指名に応え参加している。ちなみに他の生徒会メンバーは会長不在で抜けた穴を埋めるため学園に残り雑務に奔走している。
そして学園祭参加メンバーにはこの二人の上級生の他に、もう一人だけZクラスのメンバーでない生徒がいた。
「ふふふ、楽しい旅になるといいね」
和やかな笑みを浮かべながらそう言ったのは二年A組の生徒シオン・クレアだった。
なるべく実力を知っている人たちで代表チームを組みたかったルイシャは彼にも出場を頼み込んだ。前にダンジョンに入った時彼の実力はしっかりと確認済みだ。ゴーレムを作るという独自の魔法に、冷静な判断力、チームにいたら心強いことこの上ない。
「お忙しいところ来ていただきありがとうございますシオンさん」
「いいんだよルイシャくん。王都に篭っているのも飽き飽きしてたところだしね。楽しい旅になることを期待してるよ」
Zクラスの十四人とここにいる上級生三人を合わせた十七人が、魔法学園の代表メンバーだ。
天下一学園祭の出場人数は十五人から二十人の間とルールで決められている。毎試合三人選抜して行うトーナメント形式であるため人数は多いほど有利なのだが、ルイシャはよく知らない人を入れるよりも信頼できる人物で固めることにしたのだ。
「それじゃ僕たちは甲板に行くので失礼します。当日はよろしくお願いします」
そう言ってルイシャはシャロの手を引いて三人と別れようとする。
すると去っていくルイシャにシオンが声を投げかける。
「甲板に行くなら気をつけたほうがいいよ。この船には僕たち以外の生徒も乗っているみたいだからね」
「……わかりました。気をつけます」
そう言って頭を下げたルイシャは階段を上り甲板を目指す。
「ねえシャロ、他の学校ってどこのだと思う?」
「商国は色んな国や地域と仲良くしてるから私も分からない。でもそもそも他の国じゃない可能性もあるわ」
「それってもしかして……」
「そう、商国にある超武闘派学園『牙狩り養成学園若き獣牙』のことよ。去年の大会でも好成績を残してる優秀な学園らしいから今年も参加してるでしょうね」
ルイシャもその学園のことは耳にしたことがある。
商国の持つ独自の戦闘部隊『牙狩り』を育成するその学園には、大陸中から優秀な身体能力を持った子供が集められているらしい。
その噂が本当であれば強敵になることは間違い無いだろう。
「ふふ、どんな戦いをする人たちなんだろう。楽しみだなあ」
「ルイって本当に戦うのが好きね」
「うーん、『戦うのが好き!』ってよりも僕は強い人を見るのが好きなんだ。この世界にはまだ僕の知らない技や魔法がたくさんあるはずだからね! それを知ったり覚えたり出来るのが楽しいんだ」
そう言って目を輝かせるルイシャを見て、シャロは小さく笑う。
(まったく、私もうかうかしてられないわね。こいつの横にいるためにももっと強くならなくちゃ!)
シャロは心の中でそう決意するのだった。