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第2話 大陸一の大商人

「うおっほん! 我が愛機『スカイフォート』へようこそ学生諸君!」


 ルイシャたちが魔空戦の中に入りその甲板かんぱんの上に行くと、立派な白い髭を蓄えたおじさんがそう話しかけてきた。

 年は六十歳くらいだろうか、背はルイシャよりも低く力もそれほど強くはなさそうだが、不思議と全身から活力を感じる人だった。


「あ? なんだおっさん迷子か?」


「こ、こらバーン! お前なんて失礼なことを!」


「なんだよユーリ、そんなおっかねえ顔して。俺なんかやっちまったか?」


 ユーリの剣幕に押され、さしものバーンも狼狽うろたえる。

 どうやらこの人物はそれほどまでに偉い人のようだ。


「ほっほ、構わんよ王子どの。子どもは元気過ぎるくらいがちょうどいい」


「し、しかし……。魔空艇をお貸ししていただいた恩もあります。どうか謝罪を受け取っていただけないでしょうか、ブルム殿」


 ブルム。ユーリの口にしたその名前を聞いて、さすがのバーンも目の前の人物が誰なのか分かってしまう。


「も、もしかしてこのおっさんが商国ブルムを作った大商人『ブルム・リンドリア』だってのか!?」


「ほほ、せいかい♪」


 バーンの口にした名前は教科書に載るほどの超有名人だ。

 たった一代で巨大な商会を作り上げ、更に幾多の商会と手を組み協力し一つの国をも作り出した傑物。

 大陸一の大商人との異名を持つ人物、それが目の前の小さなおっさん『ブルム・リンドリア』の正体なのだ。


「す、すまねえおっさん! まさかそんなスゲえ奴だとは思わなくて」

「だからおっさん言うなこのアホっ!」


 失言に失言を重ねるバーンの頭をユーリは思いっきりぶん殴る。

 昔の彼であればたいした威力はなかっただろうが、彼もまた日常的にルイシャにしごかれているのでその筋力は大きく成長している。おかげでバーンの頭部はゴチン! と大きな音を立てながら甲板にぶち当たりそのまま彼は「きゅう」と目を回してしまう。


「す、すみませんブルム殿、こいつには後で口酸っぱく言い聞かせておきますので……」


「だからよいと言うてるじゃろ、この程度わしはぜーんぜん気にしとらんわい」


 本当に興味が無さそうにそう言ったブルムは、必死に頭を下げるユーリから視線を外しルイシャの方に視線を移す。


「それよりも……わしは君に興味がある。君じゃろ? 最近何かと話題になっておる魔法学園の生徒というのは」


 それを聞いたユーリは肝を冷やす。

 確かにルイシャは何かと話題に上がる。Aクラスの生徒をぶちのめしたり、盗賊団を壊滅させたり、王都を襲った魔族を壊滅させたり、と数え上げたらキリがない。

 しかしそれらの情報はユーリが頑張って情報規制しているので、実は国外にほとんど漏れていないのだ。


 だがそのような小細工も目の前の老人にはまるで意味がなかったようだ。


「僕のことを知ってるんですか?」


「多少、の。ふむ、思っていたよりも普通の少年じゃな。となると先天的なものではなく後から培ったものか。それにしては驕りのない真っ直ぐな眼じゃな、良い師に育てられたか」


 ブルムはぶつぶつ呟きながらルイシャのことをつま先から頭までじっくりと観察する。

 そんな風に見られるとルイシャも少し恥ずかしくなってしまう。


「あの、何でしょうかじろじろ見て……」


「おお、これはすまない。職業柄人間観察をすぐしてしまってな。お詫びと言ってはなんじゃがこの魔空挺の設備、好きに使ってもらって構わんぞ。レストランに図書館、プールなんかも備え付けておる。到着までの二日間退屈はせんじゃろうて」


 それを聞いたクラスメイトたちは色めき立つ。まさか空の上で娯楽まで楽しめるとは思ってなかった。

 ブルムはそんな彼らを見てにっこり笑うとその場から立ち去っていく。ユーリだけにこっそりと耳打ちをして。


「王子どのもゆっくりすると良い。しっかりと休み……しっかりと魔空挺を研究するのじゃぞ?」


「……っ!!」


 心の奥底まで見透かしたような発言に、ユーリは全身に鳥肌が立つのを感じる。

 しかし彼はそれを一切表情には表さなかった。いずれ国を背負って立つものとして弱みを見せるわけにはいかない。


「そうですね、折角なのでじっくりと観察させていただきますよ。王国が有事の際には手を貸していただくことになるでしょうから」


 当然これはハッタリだ。

 王国と商国は確かに仲がいいがそれは利害が一致しているからに他ならない。

 商人とは利害を何より考える生き物だ、もし王国の味方にいたら不利と判断すれば容赦なく切り捨てることだろう。

 ユーリはそれをよく理解した上で皮肉を言ったのだ。


「……あの小さかった王子が大きくなったものじゃ。さぞフロイの奴も鼻が高いじゃろうて」


 ユーリの顔に、若い頃のフロイ王の面影を感じたブルムは僅かに頬を緩ませながら去っていくのだった。

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